フーゴはへんたいさん


パンナコッタ・フーゴはギャングである。
イタリアはネアポリスの主要企業を牛耳るパッショーネ。先代のボスは麻薬によって莫大な利益を上げていたが、そのボスがある一人の少年によって打ち倒されたことにより新体制が敷かれることとなったのだ。

その構成員の一人である彼。
先日「麻薬チーム」と呼ばれる先代の残りカスと壮絶な戦いを繰り広げ、パッショーネに舞い戻ってきたフーゴは、手土産と言うにはいささか手のかかるものを拾ってきた。
『ねえ、ね、フーゴ』
「………何だよ」
『フーゴはへんたいさんなの?』

まだ年端もいかぬ幼児。本来なら親の庇護下で日の当たる生活をしているはずのこの少年は、麻薬チームとの戦闘後に捜索した時に地下の格納庫で、積まれた麻薬と“もう一つの石仮面”と共に発見された。

詰まるところ少年は吸血鬼であった。

「………は?」
『おようふくの下には何がある?』
「まあ、そりゃ素肌だが。だけどこの服装は僕のアイデンティティであって、」

“素肌”というワードに瞳を煌めかせ、話を聞き終わらないうちに一声きゃあ、と嬉しそうに叫ぶ。両の細腕でほおを抑え、小走りに部屋のなかを駆け回った。
『穴あきのふく!すっぱだか!フーゴはへんたいさんだーッ!』
「違う、きちんと服は着ているだろうがッ!」
幼児特有の甲高い声で走り回る少年は、鬼となったフーゴから逃げるのに夢中で周囲の状況に気づいていなかった。

いつもは太陽の光が当たらないように窓もカーテンも閉め切り、電灯さえもつけない少年専用の部屋。しかし人間のフーゴが起きているということは外は昼間であり、つまりは─
『へんたいさんなんかにぼくがつかまるもんかッ!かんぜんににげきってやるぞ!』
ガチャリ、と扉を開ける音に、反射的に動いたフーゴの体。軋んだ音を立てて開く戸の隙間から日光が降り注ぎ、



「─っぶないなあ、全く君というヤツは!」
ぎりぎり顔が日にさらされる一歩手前で少年を押し飛ばし、肩で息をする。間一髪、と言ったところか。少年はポカンとした顔で呆けていたが、すぐに合点が言ったのかにっこりと笑う。

『フーゴ、フーゴ、あのね』
「何だよ。これに懲りたら少しは大人しく」
『フーゴがへんたいさんでも、ぼくのすてきなお兄ちゃんだよ。助けてくれてありがとう』

面食らったかのように軽くのけぞる青年。彼の心に少しの愛しさが込み上げる

「いや待て!さりげなくまた変態呼ばわりしたなこのド生意気があああぁぁぁぁーーーーーーッ!許さんぞッ!!」
訳がなかった。
今度は先程よりも目に見えてぶちギレている鬼に楽しそうな笑い声をあげ、吸血鬼の身体能力も相まって脱兎のごとく逃走を開始する少年。フーゴが疲弊してリタイアを宣言するまで後1時間、彼らはこの閉じた空間の中で鬼ごっこを続けるのだった。







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