柱の男とドイツ軍人


※名前変換なし


『いやー、今日も精が出ますね』
 男の口からまるで昼間道中で見かけた農業労働者への挨拶のような、労りの意を持ちながらも間延びした声が放たれた。もしここがさんさんと陽の光を浴びる畑道での会話であれば、男には会釈か、それでなくとも彼の言葉に何かしらの反応を示しただろう。

 しかし今ここに男以外の人間はいない。
 何故ならばここはイタリアはコロッセオの地下。そこに建てられた柱の一つに、彼は話しかけたのだ。


 男はナチス=ドイツの軍人だ。ついこの間成人したばかりの若い男で、そしてついこの間徴兵されて祖国からここに飛ばされてきたのだ。
 彼の所属する部隊がコロッセオ地下で何をしているか。男のような階級の低い兵士にその全容が明かされることはない。しかしどうやら、自分が毎晩見張りを任された柱を調査しているのだということは分かった。

 この柱には他の聳え立つそれらとはかなり違った点がある、ということにも男は気づいていた。第一に柱の表面がでこぼことしている。それはよく見ると人間のような模様を形作っている。しかも三人だ、三人の背の高く強靭そうな男の彫刻のようだった。
 更に、それらには触れてみると脈があった。手触りは柱そのものの材質と何ら変わりは無い。しかし人の体温よりかは低いが、確かに生物の温かさがあるのだ。

 男はなんだか神秘的なこの柱の彫像をいたく気に入っていた。なんというかミケランジェロが描いた壁画のような、神秘的でいて古代の英雄然とした「彼ら」に一種の憧憬を感じていたのだ。

『貴殿方はどうしてこのイタリアの地下でずっと眠っているのですか?』
 返答はない。しかし男は一人言にも似たそれを止めたりはしない。

『いつからここに?どこから来たんですか?何を求めて?』

『イタリアでできた友人から聞きましたが、この柱は何千年も前からこうしてあったと。貴殿方は人間ではないのですか?』

『どんな歌を聞き、どんなものを食べ、どんなものを是とするのですか?』
 質問を重ねる毎に男の表情はうっとりとなにかに思いを馳せるような、子供が将来の夢を語るときと似た夢見心地なそれに変化してゆく。自分は今時を越えて眠る者達に遭遇しているのだという事実に陶酔している。

『ああ、もしも今!』
この場で彼らが目覚めたら。









BACK///




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -