ペンドルトン嬢は二人いる


「ペンドルトンは腕の立つ医者である」
 時おり悪童にヤブ医者だと揶揄されることもあれど、貴族や街の人の間ではこれが紛れもない事実である。そうでなければあそこまで大きな病院の経営を維持することは不可能だろう。医師である当主は勿論、看護師達も病人を丁寧に救護してくれると評判だ。
 そしてペンドルトン家についてもう一つ噂されることがある。


「ペンドルトン嬢は実は二人いる」


 ジョナサン・ジョースターは近頃、恋愛事に夢中になっている。それを近所の“友人”から聞かされたディオ・ブランドー(まだ正式に養子になったわけではないのでジョースター姓は名乗っていない)はとある計画を実行に移すことにした。
 ディオはジョースター家の財産を狙っている。そのために一人息子のジョナサンを腑抜けにせねばならない。そして19世紀当事女性に無理矢理キスをするというのは、公衆の面前で犯す──いわゆる強姦──と同等の大罪であった。おぞましいことにディオはそれを実際にやろうと考え付いたのだ。

 そして計画当日。確かにディオは彼女、柔らかな金髪の『エリナ』を待ち伏せし、その腕を掴み唇を奪おうと顔に触れたのだ。

 気づいたときには、彼は宙を浮いていた。

 自分の体が体重に見合った音を立てて地面に叩きつけられるのと同時に、彼は漠然と(何が起こったのか?)と考えた。あまりにも突然起きた出来事に、つまりはエリナという人物がカウンターで自分を吹っ飛ばすほどの勢いづいた右ストレートを食らわせてきたことに疑問しか湧かなかった。

「ま、まさか─『もう一人のペンドルトン嬢』か!?」
「やばい、アイツに関わったら死んじまうぜ!逃げろ──ッ!」 
 取り巻き共は肘をついて起き上がろうとするディオを置いて帰って行った。止める間もなく顔を上げるので精一杯のディオが見たものは。


『最近ジョースター家に一人、息子が増えたと伺いましたが』

 刃物を突きつけられたかと思うほど敵意を含んだ声。
 顔にびしゃりとかけられる生温い泥水。
 痛みを感じ手元を見ると黒く光るブーツの踵で踏み躙られた肌は削れ、鮮血が表面にぷくりと浮き出ていた。

 これは『エリナ・ペンドルトン』ではない。
 彼女の皮を被った恐ろしい悪魔だ。


『まさか礼儀の一つも知らない薄汚い黄土ネズミがそれだ、なんて。
 エリナに近づいたら眉間の骨削ぎ落とすわよ』





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この後エリナとジョナサンが別れることもなく
ディオの苦悩の日々が始まる。






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