悪魔のレクイエムを見届ける


※鎮魂歌中ボスのため死ぬ表現たくさん



初めに見たのはいつだったか。
確か春頃だった気がする。期待に胸膨らませ、大学生としての新生活第一歩とか言って独り暮らしを始めたあの日。段ボールに包まれた荷物の整理をあらかた終えて、休憩のために外の空気を吸おうとしてカーテンを開けると、

窓の外に奇抜な髪と格好をした男の死体があった。
この目で、しっかり、見てしまった。

その時どんな反応をしたのか覚えていない。友人に聞いてみると何やら異常に興奮した様子で電話を掛けてきたらしいのだけれど、ただ事ではないと思って急いで引っ越し先に駆け込んできた時には死体なんてどこにも見当たらず、青い顔をした自分が倒れていただけだったらしい。
それから友人に曰く付きではないか調べてみろとかきちんと規則正しい生活を送っているかだとか過剰に心配されて今に至る。

「お前の友人も大概神経が細いんだな」
『勝手に女の家に上がってご飯食べてるのもどうかと思いますが』
そしてその死体─名前は「ディアボロ」と言うらしい─は現在、こうして呑気に白飯をかっ食らっているのだった。それは私のバイト代と親からの仕送りで賄われているものなのだが。


二回目は偶然この男が虫の息であるところに遭遇した。それも私の暮らすアパートの目の前で、彼はまるで屋上から飛び降りたかのように頭から血を流していた。だが二階建ての低い建物であったため打ち所も良く簡単には死ねず、その光景を見てパニックに陥った私がどういうわけかこの男を部屋に「担いで」手当てしたのだ。
応急処置を施した直後に男は気がつき、何事かを叫びながら私を突き飛ばして玄関から飛び出し、車に轢かれて死んだ。
三回目はその三日後、同じように死にかけたこの男を発見し以下略。
四回目以下略。以下略。以下略。


不思議なことに、回数を重ねるごとにディアボロという男はこのアパートの近辺に出没し(その度に死にかけてい)た。更に私が手当てしてから外に出るまではこの男が死ぬことはないことが判明し、それに気づいてしまったこの悪魔のような人物は以来、私の部屋に住み着いている。

「この近辺にしか留まれないというのは不便だが、慣れればこのような障害オレの敵ではない。ここからだッ!ここからまたオレは“絶頂”の上に立つのだッ!」
『そうですかおじさん。食べ終わったら皿洗いお願いします』
じとりとこちらをねめつけた男は何事かを呟くと、諦めたかのように食事を再開した。なんとなくキンググリム?クリム……などと聞こえたような気はしたが、不本意なりとも被害を受けているのは私なのだ。この男に警戒こそすれ自分から折れる訳にはいかない。現に今日まで十分に寝れた試しがない。

通報なり助けを求めるなどすれば殺すと言われた。だから代わりにここに居座る間私の言う通りにしろと言った。幸い外部と繋がるものは私のスマホだけで、協力関係を破られるなどの身の危険は今のところ感じない。

安心はできないが、なんとも奇妙な共同生活だ。
一口味噌汁をすすれば、ちゃんと薄い塩の味がした。




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