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▼ 幸せはポケットのなか

深夜に二人、ユンギはソファに寝そべり、名前はそのソファとテーブルの間に膝を抱えて座り、コンビニスイーツ特集の番組を一緒に見ていた。一緒、と言ってもユンギは携帯を操作しながらチラチラとテレビを確認しているため、恐らく番組の内容はあまり頭に入っていないようだが。特集の主旨は、視聴者に事前にアンケートを取り、人気投票を行った結果をランキング形式で紹介していくというもの。十位から順に発表され、いよいよ次が一位の発表。テレビから聞こえる「そして、栄えある第一位は!」という声に興味がわくが、いざ発表の瞬間になるとお決まりの結果はCMの後、というパターン。CMに入ると、名前は抱えていた足を伸ばし、背もたれ代わりにソファに寄りかかり体を解した。


「ユンギは一位なんだと思う?」


名前がそう尋ねると悩むような声を出しながらいじっていた携帯を頭の脇に置き、天井を見つめながら考え出した。


「ロールケーキとかじゃねーの」

「それさっき出てた三位」


ユンギの予想したものは既にランクインしているので一位ではない。しかし、普段ユンギは甘い物を好んで食べることがないため他に何かを思い浮かべようと思ってもすんなり出てこないし、それなら名前がよく食べているスイーツを思い出してみようとも思うが、いかんせんスイーツよりも幸せそうに食べる名前の表情ばかり浮かんでしまい話にならず、結局「分かんねぇ」と根を上げた。


「私ねぇ絶対シュークリームだと思う」


名前が自信満々にそう言った時、ちょうどCMが明け番組が再開された。発表を焦らすように気持ち長めに流れるドラムロールのような音。そしてその音がやんだ時、発表された一位は名前の予想通りシュークリームだった。自分の予想が当たった名前は、得意げにニヤリと口角を緩めてユンギを見た。


「おまえその顔腹立つからやめろ」


名前のその顔を見て、ふはっ、とユンギは声を出して笑った。番組も終わりを迎え、次回の特集の予告が流れた後に別の番組に切り替わる。


「甘い物食べたい…」


今の今まで見ていた内容につられて名前は無性に今すぐ甘いものが食べたくなり、そう呟いた。夕食も終えてしばらく経ち、ちょうど小腹がすいてくるこんな時間に美味しそうな物をずっと見ていれば誰でもそうなるだろう。


「冷蔵庫になんかねぇの」

「ない、コンビニ行こ!」


その言葉に一瞬でユンギの顔が面倒くさそうに歪んだが、思い立ったら即行動派の名前はすぐさま別の部屋に行きパジャマ代わりのスウェットから洋服に着替えていた。もうこうなったら自分が折れるしかないことをユンギも重々承知なので、財布と携帯を持ちソファから立ち上がる。自分の着ている服を確認し、着替える必要は無さそうだ、と判断していると早々に着替えが終わった名前が戻ってきた。


「おい、こら」

「なんだなんか文句あるのか」

「あるわ」


それ俺のだろうが、とユンギの黒いパーカーを勝手に着込む名前に持ち主から抗議の声が上がった。そのパーカーはユンギが気に入ってよく着ているもの。しかし、それを物ともせず着ちゃったものはしょうがないという態度を貫く名前にユンギも仕方ないと降参した時、ねぇすごいよ、と名前がはしゃぎだした。


「私今すごいユンギの匂いがする!」

「そりゃ俺の服だしな」

「すごい!ちょっとかいでみて!」


伸ばしてきた腕の部分に鼻を寄せてかいでみたが名前の言う自分の匂いというものがユンギはいまいち分からなかった。そもそも人間というものは自分の匂いにそうそう気付けないのだ。分かんねぇ、と答えると残念、いい匂いなのに、と名前が少し眉を垂らした。


「ねぇねぇ自分の服を彼女が着てるのって萌えるでしょ?」

「自分で言うか普通」

「でも萌えるでしょ?」

「まぁな」

「どれくらい?」

「これくらい」


親指と人差し指を使って表すが、最早その二本はくっ付いてしまいそうな程しか隙間が空いておらず、すかさず名前から「少なっ!」とツッコミが入った。揶揄いついでに冗談を言ったが、内心良いもんだな、とユンギは思った。ユンギも男性の中では細い部類に入るが、そんなユンギの服を着ても少しダボついているのはそれだけ彼女も華奢な体つきをしているからであって。袖から少し覗かせる指先に、これが萌袖か、とユンギは心の中で独り言ちた。









「え、さむ」


玄関を開け、一番に思ったことが思わず声に出て、室内との温度差にユンギはパーカーのポケットに両手をしまい肩を窄めた。秋が来たと思えばもうすぐそこまで冬がやって来ている。夜になると一層冷え込みを増す寒空の下、ユンギは早速外に出たことを後悔していた。鍵を閉め終わった名前が隣に並び、ユンギの顔を見て、今すぐ家に戻りたいって思ったでしょ、としたり顔で尋ねると素直に頷いた。そうは言いながらもなんだかんだこうしていきなりの思い付きに付き合ってくれる所が優しいよなぁ、と名前が一人思っていると、ユンギは寒い、と言いながらポケットに突っ込んでいた片方の手を名前に差し出した。名前がその手に手を重ねると、ユンギのポケットに仕舞われた。触れている部分が徐々に温もりを帯びていく。


「もっと寒くなってきたらこたつ出そうね」

「出すのはいいけどこたつで寝るのやめろよな」

「えーだって最高に幸せなんだもん」

「とかいっていつも風邪引くじゃねぇか」

「それは起こしてくれないユンギが悪い」


人のせいにすんな、とユンギが握っている手に力を込める。


「大体起こすとキレんじゃん」

「違う、あれはキレてるんじゃなくてちょっと起こすのやめてくださる?って気持ちなの」

「どっちにしろ起こされたくないんだろ」


ぽつぽつと街頭の並ぶ道を談笑しながら歩いているとたどり着いた目的地のコンビニ。店内に入ると暖房が効いていて自然と二人は繋いでいた手を離したが、さっきまであった温もりがなくなると途端に指先だけ冷えていく気がした。ユンギは店内の奥に消え、名前はお目当てのスイーツコーナーに向かい、並んだ商品を吟味していく。たっぷりクリームの入ったシュークリームにロールケーキ。季節限定のタルトにチーズケーキ等々、どれも惹かれる物ばかりだ。最終的に二択に絞ったのはタルトとロールケーキ。どちらの方がいいかユンギに聞こうと店内を探すと、お菓子コーナーで背中を丸め商品を見る姿を見つける。何か買ったのかな、と思い名前がカゴの中を覗くと、名前のお気に入りのチョコレートとユンギが最近ハマっているスナック菓子が入っているのに気付きついつい笑顔がこぼれた。
両手に持ったスイーツを見せ、どちらがいいか意見を仰ぐとユンギは両方買えばいいだろと答えた。しかし、名前は両方となると摂取カロリーが気になり悩むが片方は明日食べれば、という言葉に結局どちらもカゴの中に入れることにした。


「あ、そういえばティッシュなくなったよね?」

「あーついでに買ってくか」


そういえば、と消耗品が無くなったのを思い出し店内を移動する。こういったものはドラッグストアなどと比べると少しばかり高くつくのが難点だ。


「なんかこういうの買ってると一緒に住んでるって感じするよね」

「それ毎回言うよな」

「うん、いつも思うの」


買い物に出て、こういった日用品を購入する時名前はいつもユンギと二人で住んでいることを実感する。共に生活して消費していく物と新しく増えていく物。数年一緒に住んでいても、何故だか毎度思うのだ。
会計を済ませ、外に出るとまた温度差に身が縮こまる。コンビニ袋で塞がった手とは逆のユンギの手を名前が握り、先ほど歩いたばかりの道を今度は自宅に向かって歩き出す。


「ねぇ、帰ったら借りてた映画見たい」

「おまえどうせ寝るだろ」

「絶対寝ない!」


夜も更けている時間なので、声の大きさに気をつけてはいるが寝る、寝ないの攻防は続く。月に照らされた細道には、寄り添いひとつに重なった二人の影が伸びていた。





title:さよならシャンソン

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