笑え笑え!




「…瀬戸。」


今日もヒス女が俺の席にやってくる。

毎日飽きもせずやって来るこの女に、もう流石に文句を言う気というのは湧いてこなかった。

つくづく慣れというのは恐い、と感じる。


「…何。」

「アンタ、高橋君にちゃんと言ってくれたぁ?」

「………何のことだ?」


この女の為に頭を捻ってみるが、心当たりがない。


「…アンタの頭は鳥なの?」

「あぁ”?」


俺はヒス女なんかにバカにされて苛立ちが隠せなかった。


「高橋君に私の事を睨まないで、って言ってって頼んだじゃないっ!」


ヒス女は持ち前のヒステリーを起こす。


「…てめっ、それが人に物を頼む態度かよ?」

「高橋君ーっ!!」


唐突にヒス女が斜め前方の小林軍団にいる高橋に向かって声を掛けた。

ヒス女に名前を呼ばれた高橋は確かに不機嫌そうに見えた。


「…お前、皆から嫌われてるんじゃ…。」

「瀬戸が高橋君に話したい事あるんだってーっ!」


ヒス女は俺を一睨みして、言葉を続ける。


「あとは宜しくねっ」


そう言ってヒス女は俺から離れていった。






クラスメートからの視線を贅沢にも一斉に浴びる。




…人の視線は嫌いだ。




「瀬戸ぉ、高橋に告白でもすんのかぁー?」


小林君がチャチャを入れると、横にいた高橋が顔をしかめ小林君をど突いた。


「…いや、俺は…」






周りの視線が…注目が…気持ち悪い。




小林軍団がニヤニヤと呆然と突っ立っている俺を笑っている。


女子共はキャーキャーと勝手に騒ぎ立つ。


「瀬戸が高橋君に告白だって。」

「嘘ぉ!!瀬戸ってホモだったんだぁっ」



グルグルする。



「瀬戸、早く言えって!」

「休み時間終わっちまうよっ!」





…お前らは一体何を期待してんだ?

…俺に何を?



好奇の目が気持ち悪い。

一人一人潰していきたい。



「…いい加減にしろよ、お前ら。」


その声は静かに響いた。


高橋だ。


「勝手に盛り上がんなっ。…瀬戸、後でにしよう。」

「あ、…あぁ。」


周りは高橋の何も言わせないとする空気に静かになった。


…助かった。俺は俺の中のどす黒さに飲み込まれてしまいそうだった。




「お前もさっさと否定すりゃ良かったのに。」


横にいた小山が始業のチャイムと共に自分の席に戻っていく。



…ああいう連中に否定した所で無意味だろ。

連中は自分に都合のいいように勝手に解釈するんだ。



連中は俺をホモにしたかったんだろ。自分達の生活を面白くする為に。









勝手にすればいい。





勝手に笑いの種にすればいい。




「瀬戸…」

「今、話しかけんな。」


俺は後ろの高橋を振り返りもせずに拒絶した。



この時の傷ついた高橋の顔を俺は見ていない。








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