ムカつく。 なにがムカつくか、なんて俺にとっては愚問。 シズちゃんの存在そのものがムカつく。 「帰れ」 「俺に会って第一声がそれ? 相変わらずひどいなぁ……シズちゃんは」 シズちゃんの仕事が終わる前にこっそりと家の中に忍び込んでお出迎え。 世間的に言えば不法侵入で犯罪になるけど、細かいことはどうでもいい。 不法侵入だろうがなんだろうが、俺はシズちゃんに会えればそれで満足だ。 「言っただろ。手前に興味はねぇ」 「興味がないとはひどいなぁ。俺、シズちゃんのことは“嫌い”だけど“興味ない”とは言ってないよ?」 「知るか、帰れ」 軽々しく俺を抱え上げて外に放り投げると扉を壊しそうな勢いで閉めた。 ただのくだらない会話をすることさえも許してくれない。 はじめてシズちゃんに会ったときからずっと変わらない関係。 進歩もなければ後退もない、平行線上の関係。 少なくとも、俺はこんな関係望んでない。 「シズちゃーん。聞こえてるんでしょ?」 「……聞こえてねぇよ。何もな」 地に座ってさっき追い出されたばかりの扉に寄りかかる。 扉越しの会話。 今も昔も、これが俺たちの素直になれる限界点だった。 「好きだよ」 「……知るかよ」 ただ、俺がいくら想いを伝えようともシズちゃんから俺の望む返答がくることはない。 多分、それはこの先ずっと変わらない。 変わることは、あり得ない。 「臨也、風邪引くぞ? いい加減帰れ」 言葉使いも言い方も荒い。 だけどそれがシズちゃんなりの最低限の気遣い。 それがわかってしまうから嫌、なんだ。 だから嫌いになれない……なんて、そんな俺の気持ちをシズちゃんはきっと知らない。 「分かってるよ。――じゃあね」 重い身体を無理やり起こし、池袋を離れ新宿に戻る。 なぜだろう。 大半の人間は俺にとって問題なく手のひらの上で踊らせることができるのに、どうもシズちゃんだけはうまくいかない。 俺は自分の思い通りにならない世界なんて大嫌いだ。 だからこそシズちゃんが嫌いだし、こんなところにいたくない。 こんな世界、なんて…… 「――消えてなくなればいい」 叶いもしない夢に苛立つ気持ちと行き場のない気持ちの狭間で、自虐気味に笑った。 寵愛シンドローム (シズちゃんを殺せたら楽なのに) (それができない俺は、) (ただ、臆病なだけだ) |