62/79
初雪ではしゃぐなんて子供だけだと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。
「月島!見て!雪!!」
目をキラキラさせて両手を広げて、わぁっと感動のため息まで。雪を見てはしゃぐ犬と大差ない。
こっちは寒くてそれどころではないというのに。
「雪なんて珍しくないデショ」
「でも初雪は特別な感じするもん」
チラチラと振る雪を顔で受け止めては、冷たいと当たり前のことを言ってはしゃぐ花田の気持ちを、僕は一生理解出来そうにない。
「このまま積もるかな?」
「すぐに溶けるよ、初雪は」
初雪を儚いと表現する人もいるみたいだけど、僕からしたら汚いという方がしっくりくる。中途半端に積もった真っ白な雪は、溶けて土を吸って茶色に変色し、べチャッとしたシャーベット状になる。靴には染み込むし、冷たいし、良いことなんてない。
でも、そっかぁと残念そうにしている花田を見ると、少しだけ見方を変えてもいいかもしれない。
「冷た!」
ヒヤッと首筋に触れたのは、外気で冷やされた彼女の手。背伸びして足をプルプルされながら、わざわざマフラーを巻いた首筋を触ってくる辺り、彼女なりのイタズラのつもりなのだろう。冷たさにムッとしてしまう。
とりあえず、前言撤回。雪も寒さも冷たさも大嫌いだ。
「びっくりした?」
悪びれもせず聞いてくる彼女の両手を掴んでグッと力いっぱい引く。
ぽすん、と僕の胸より下あたりに彼女の頭か埋まる。
「びっくりというより、ムカついた」
寒いの嫌いって知ってるよね?ってほっぺをむにっと摘む。この感触は嫌いじゃない。
「ごえんあひゃい」
鼻水垂らして間抜けな顔で、花田はえへへと笑う。くっついてるとあったかいねって。
「冬の特権って感じ」
「なにが?」
「堂々とくっつけるのが」
「なにそれ」
別にそんなの冬じゃなくたって、と思うけれど、彼女が幸せそうなので、よしとしよう。
雪合戦とか、かまくらとか、ソリ滑りと言う単語は僕には聞こえていないし、知らない。
ただ、行くよと手を差し出すと顔を綻ばせて大きく頷くのが可愛かったので、まぁ雪遊びしているところを遠巻きに見てやらなくもないかなと思った。
きっと花田と呼べば、遊びに夢中でも尻尾を振って大喜びで僕のところに飛んくるだろう。そうしたら2人でホットココアでも飲んで、さっきみたいにくっつきあえば、もっとあったかいに違いない。
20141218