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背が高いくせに、いつも頼り無さげな彼の小さく丸めた背中を何度も愛しいと思った。

「東峰くん?」

嶋田マートの帰り道、見覚えのある後ろ姿を見つけた。久々だと言うのに躊躇いなく声を掛ける事が出来たのは、その背中から出されたオーラが相変わらずだったから。

「花田先輩?」

瞬間驚いたものの、ふにゃりと笑って駆けて来てくれた事に安堵する。

「久しぶり、元気?」

「はい」

数か月前まで同じ校舎に居た一つ下の後輩が、バレー部のエースだと聞いた時には驚いたっけとあの頃を思い出して懐かしくなった。

「またそんなに背中丸めて!しゃんとしろ、しゃんと!」

背中を叩くとピシッと背筋が伸びて、更に身長差が開く。

「相変わらずですね」

彼は黙っているととことん強面の顔をこの上なく破顔させる。それを見て、吹っ切れていた筈の気持ちが過って胸の痛みを思い出した。

「先輩、キレイになりましたね」

不意に言われた言葉に動揺して心臓が跳ね上がる。

「きゅ、急にどうしたの。東峰くんがそんな事言うなんて…」

黙っていると怖がられる見た目と自信の無さげな背中が不器用に見えて、そこに惹かれた。彼を好きだと体現して、彼も私に懐いてくれている、そう思って疑わなかった。今思えば、彼の優しさに甘え過ぎていたんだと思う。

受験シーズン、思う通りに上がらない成績とその焦りから彼を呼び出しては愚痴をこぼしたり時には当たり散らす事もあった。それでも彼は文句も言わずに聞いて、励ましてくれて、私の隣に居てくれた。私は合格した嬉しさと受験からの解放感で、ようやく彼に想いを伝えたのだけど、東峰くんは困った顔をしてすみませんと私の前から去って行った。

その時と同じ顔で私を見下ろすもんだから気持ちがふつふつと蘇る。

「彼女でも出来た?急に女子褒めるなんて君らしくないよ」

不器用な彼からそんな風に褒め言葉が簡単に出てくるとは思えない。もしそれが彼女ができた事による変化なら、私は今でも傷つく事が出来るだろうと視線を反らす。でもそれを追いかける様にして大きな体は私の目の前に来る。

「花田先輩、あの時は、その、すみませんでした」

「やだな、謝られたりしたら…」

みっともないじゃないと言おうと見上げると、真剣な眼差しが降ってきてそれ以上目を離せなくなった。

彼を忘れようと忙しくしていた数か月はどうやら無駄だったなと自分の心に白状する。

「ごめんね、まだ君が好きみたい」

頬に触れようと手を伸ばした。でもその手は頬に触れる事は出来ずに彼の大きな手に包まれる。頼り無さなんて微塵も無い強い視線は私を捉えたままだ。

「俺、あの頃部活で色々あって、先輩の気持ち受け止める事から逃げたけど…」

心臓は跳ね上がるばかりで落ち着きそうも無い。一度振られた筈の彼から想いを告げらるのは、それから10分後のこと。



20141026

お題メーカーより【でも、そんな君が好き。/ごめんね、君が好き。/丸まった背中が愛しい
mae ato
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