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移動教室で歩いていると少し先に夢子の後ろ姿を見つけた。後ろ姿でわかるとか俺も大概気持ち悪いなと思っていると岩泉先輩と声が掛る。振り返ると見た事のない女子が俺に向かって話しかけているのでどうやら聞き間違いでは無いようだ。

「何?」

「放課後、部活前の少しの間でいいので時間貰えませんか?」

やたらと真っ赤になっているけど大丈夫か、とは言わないけど少し考えて部活前の時間でいいならと告げると彼女は嬉しそうにありがとうございます。放課後また来ますと走って去って行った。なんだかな、と頭をポリポリ掻いて先を進むと壁にへばりつく夢子の姿。

「お前何してんのそんなとこで」

「いや、なんとなく見ちゃいけないのかと思って」

は?と顔しかめると呼び出しされてたでしょと言われて先程の女子の事を思い出した。あれはそういう呼び出しだったのか。

「まいったな」

「まいったな、なの?」

そりゃまいるだろうと言うと夢子はホッとした様な困ったような複雑な表情を見せる。

「今はバレーが優先になるし、知らない奴から言われてもなあ」

気持ちは嬉しいけど、おそらく俺の性格的にそこから始まる恋愛というのは無い。いくら好きだと言われたところで断る事が決まっている以上、心労が加わるだけだ。

「徹ちゃんはバレー優先でもいいって言われたら付き合うみたいな事言ってたよ」

「俺とあいつを一緒にするな」

引き合いに出されたのが及川な上、この手の話をあいつとした事があるという事実に無性に腹が立った。そして先日言われた事を思い出す。『本気になっちゃおうかな』その言葉を言われてから及川とは夢子の前以外ではまともに話していない。

本気になっちゃおうかなとはつまり夢子を落としにかかると言う事だ。あいつの事だから夢子を泣かせる様な事はしないだろう。ただ、もしそうなったらという様な事を考えるとムシャクシャしてどうしようもなくなる。掴みかかって殴ってしまいそうになるので、極力及川の顔を見て話さないように努力している状態だ。

「お前、及川からなんか言われたか?」

「なんかって何?」

「…いや、なんも言われてないならいい」

悪いと夢子の頭に伸ばしかけた手を止めて悲鳴あげるなよと忠告すると爆笑された。トラウマの原因のクセにと髪をぐちゃぐちゃにしてやる。

「そういえば機嫌直ったのか?」

そう聞いた時、彼女は一瞬キョトンとしてはにかむ。

「もう大丈夫。ご迷惑おかけしました」

その顔がいつもの知っている笑顔に戻っていたのでどうやら信じても良さそうだ。



20141023
mae ato
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