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新刊入ってますよ、と彼に告げると少し驚いた顔のあとに浅く頷くのが見えた。無愛想で無表情な顔も見慣れた頃、そういえば彼がいつも買っていくのは小説がメインだと気付いた時にはそのギャップにやられていた。いつも一緒の赤髪の相棒さんが違和感なく同じ本を読んでいる姿を想像して不憫に思ったが、やはり笑いがこみ上げる方が早かった。

彼が持ってきた本は最近お気に入りの作家の新刊だった。この手の本が好きなのなら、とおススメを数冊見繕う。その中の一冊を手に取り興味深げに眺めたあと最初の本の上に重ねて置いた事からこの本もどうやら購入するつもりらしい。

「こっちの方のお代は結構です」

というとまたもや彼は少し驚く。そして手話で何やら語りかけてくれたけれど、私は首を横に振る。

「ごめんなさい、手話、わからないんです」

渾身の笑顔で対応した。手話はわからないけれど、この流れからいくとおそらくタダじゃもらえないというようなところだろう。怖い顔を更に渋らせて彼は頭を掻く。困ったな、というような表情なのだろうか。なにせ表情がわかりにくい彼だ。勝手にこっちが表情から解釈するしかない。

「もし、おもしろかったら感想、言いにきてくれませんか、ニコラスさん」

袋に商品を入れ彼に渡しながら告げると、受取ながらコクリと頷いてくれた。その頷き方が見た目に反して幼いもんだからまたしても笑いがこみ上げる。どうやら私はニコラスさんのギャップというものに弱い生き物なのかもしれない。彼は手話でありがとう、というような仕草をした。

「少しは口が聞けるの、知ってるんですよ」

というとまたしても驚いた顔。どうやら今日は彼を驚かせてばかりのようだ。

「ごめんなさい、このまえヨエルおばあちゃんにそう言われてるのを見て、マネしちゃいました」

言うと彼は少しだけニヤリとして「マた来ル」と手をあげて帰って行った。普段やはりあまり声を出さないからか少し話しにくそうな、だけど心地の良い低音の声にドキリとしたのは言うまでもない。





20140912




ニックなんかファンタジーとか読んでればいい。好きだ。
mae ato
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