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ここ数日夢子と目が合わないとは感じていた。どこかよそよそしいというか、なんというか避けているまではいかないが、いつもと違っていた。廊下ですれ違っても岩ちゃん岩ちゃんと寄ってこないし、話しかけても返事が空返事だったりで会話が終了。何か怒らせただろうかと考えてはみたものの思い当たる事がなく、単に機嫌が悪いだけだろうと思っていた。

「夢子ここ寝癖ついてる」

及川が夢子の髪を押さえるような仕草で触ると、

「あ、ホントだ」

その部分を自分で触って確認した夢子がもーやだな、と唇とつき出す。夢子の手から荷物を引っ手繰ろうと手をかけると過剰に反応されて『ギャアッ』とおよそ女が出すとは思えない声を出された。

「…悪い。荷物持っててやるからその間に髪直せって、言おうと」

「ご、ごめん。びっくりして変な声だしちゃった」

はは、と笑う彼女は少し表情を引きつらせていてやはりいつもと少し違うなと首を傾げる。

「悪かったな急に荷物持とうとしたりして」

「あ、私こそ、大きな声だしてごめん…」

謝ったものの扱いが痴漢と同レベルでかなり傷つく。

「もー岩ちゃん、ダメじゃん夢子は女の子なんだから雑に扱っちゃ」

片目をつぶって俺に説教をたれる及川のもう片目をつぶそうと考えて動きを止めた。よく見ると及川の手が夢子の腰に回されている。

「お、おいおいお前なにさりげなくコイツの腰に手ぇまわしてんの?どけろよ」

及川の手の甲を思いっきり抓ってやると、痛みに顔を歪ませながら奴も負けじと言う。

「お生憎様。俺は岩ちゃんみたいに夢子に拒否されてませんから?」

「そういう問題じゃねえんだよ。朝っぱらから女の腰に手ぇ回すとか、痴漢かお前は」

「痴漢扱いされたのは岩ちゃんでしょう?俺じゃないし。現に夢子は嫌がってないし?」

「お前がさりげなさすぎんだろ。コイツが汚れるからその手を早くどけろコラ」

「自分がさりげなく触れないからって俺に八つ当たりするのやめてもらえますぅ?」

お互いに口は笑っていても、こめかみの青筋は隠せない。力づくで腕をどかそうとしても決して折れない及川はむしろ反対の俺の手も取り何故か取っ組み合う形になっている。その真ん中にはもちろん夢子がいて、2人共いい加減にしてと下から怒られた。及川と同時に謝ってしまい被るなよと睨むと向こうも同じ顔をしていた。くそ。そこまで被るな。

ごめんね夢子と及川は当然の様にアイツの手を引いて歩いていて、夢子もそれを自然と受け入れている姿に俺は心配になる。

「お前な、こんな女の敵みたいな奴と簡単に手なんか繋ぐんじゃねえよ。」

「だ、だって徹ちゃんのコレはもう普通っていうか慣れたっていうか日常になっちゃったんだもん。別に誰とでも簡単に手とか繋いでるわけじゃないし」

ごにょごにょと言うので当たり前だろ、と言うと目をそらされた。何でだ。

「自分が夢子と手繋げなかったからって当たらないの」

またしても及川が横やりを入れてくるので黙れと蹴りを一発。

「俺に触られんのそんなに嫌ならもう触んねえから、さっきみたいな痴漢扱いはやめろよ」

結構傷ついたと正直に言うとごめんと彼女は頭を下げる。

「でも触られるのが嫌とかそんなんじゃなくて、ほ、ほんとビックリしただけっていうか、なんていうか、その、岩ちゃん、女の人に触ったりとかイメージなくて…」

とにかくごめんなさいと更に深く頭を下げて、夢子は教室に向かって走って行った。取り残された俺たちは自然と顔を見合わせる形になったが及川が顔を歪ませてプスっと笑ったので、とりあえず及川ブットバス。

「岩ちゃん振られちゃったね?」

「あ?なんのことだよ」

3年の教室棟に付くまでこのやり取りが続いたのは言うまでもない。





20141012


この阿吽誰かください


mae ato
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