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出会ったのは高校生の頃。当時はひどい赤面症に悩まされていた彼女も大人になるにつれその頻度は減っていき、今では滅多な事では赤くならなくなっていた。隣の席になったのがきっかけで距離が縮まり、ゆっくりと時間をかけてお互いの気持ちを通わせた。その後、受験や進学そして就職などを経て同年代では早い段階で結婚をした。新居はお世辞にもキレイとは言えない。ぶっちゃけ非常にボロイアパートだが、子供が出来るまでは節約をしたいという彼女の意向に沿って、家賃の安い所を選んだ。譲れない点としては治安の良さと駅やスーパーの近さ。日中、家にいる事の多い彼女が少しでも負担に感じない様にとそこは俺の意見を押し通した所でもある。ほんとに過保護なんだからと彼女は苦笑いだが、なんと言われてもそこは譲れないのだ。

玄関についてインターフォンを押すと『はーい』と明るい彼女の声。『あー、俺』とそう応えれば中からパタパタと足音がして『おかえりなさい』と満面の笑みで出迎えられる。こういうのが幸せってやつかと毎回噛みしめる事が出来るあたり、俺も相当だなと思う。迎え入れられた玄関からは温かい味噌汁の香りがして空腹にかなり堪える。近所の魚屋さんが奥さんかわいいねとまけてくれたんだよと、ウキウキ語るサンマがどうやらメインらしい。『ホラホラ早く着替えてきて。ご飯にする?それとも先にお風呂はいっちゃう?』これはアレか。憧れのアレだ。それともあ・た・し?のヤツだ。と内心にやつきそうになる気持ちを抑えながら『メシ、でもその前に』と新妻の唇とサッと奪う。





















という夢を見たんだよ、と花田に言うとすでに顔が真っ赤なのは安定だ。

「いや、あくまで夢だからな」

「わわわわわわかってます!!」

最近では俺と話す時にもどもりが少し取れてきていたというのに、時間が巻き戻ってしまったかのようなどもりっぷりだ。なんかちょっと前の事なのに懐かしい。ので、また男としてのサガがうずいてしまう。

「ちょっと新婚ごっこしてみねえ?」

「やです!」

文字通りの全力否定にムッとすると真っ赤な顔で泣きそうな目をした小さな動物に睨まれる。くそかわいいな。

「ご飯にする?お風呂にする?それともあ・た・し?ってこれだけ言ってみて」

「むむむむむ無理です!!」

確かに彼女の性格を考えれば少しハードルが高いかもしれないと、うーんと頭を悩ませる。

「じゃあ、あなたって言ってみて」

「やです」

俺が花田の目をじっと見て言えば、たまに我儘をきいてくれる事を知っているのと反対に、俺の目を見ると断れない事があると学習している花田はそっぽを向く。くそ。あなた萌えしたかったのにチクショウめ。机に伸びていじけると、つんつんと制服の裾を引っ張られる。もちろん犯人は花田だ。

「……て」

「て?」

「テツロウさん」

言うなり彼女は机の下に隠れそうな位小さくなり、きっといつもの様に真っ赤になっているだろう。かくいう俺も負けない位赤くなっている自信があるが、彼女に見られていないので良しとしよう。つうかなにこの萌えまじか。名前+さんの破壊力!くそ。今度からそう呼んで貰えるように花田の目を見て交渉しようと思った木曜の昼休み。






20140925



mae ato
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