俺があんなに気にしていた縞クンは、ただのどこにでもいるような平凡な男だった。
 わざわざ調べて顔まで見にきて損した。あれはこの俺が気にかけるような人種じゃない。Eクラスなんかにいるくらい頭も悪いみたいだし。彼には同じクラスの馬鹿たちとつるむのがお似合いだ。とてもじゃないが俺には釣り合わない。

 ふつふつと湧き上がる正体不明の苛立ちに理由をこじつけて。

 そうして俺は、縞クンへの興味を殺した。



 しかしそれから一月後、俺は信じられない光景を目にすることとなる。

「イヤァァァ! なんで!? なんで会長様があんな平凡と!?」
「ちょっとどういうことだよ誰か説明してよ!」
「有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない」
「あの難攻不落の会長を落とすなんて、あの平凡なかなかやりよる……」

 昼に訪れた食堂で見たのは、一般席でひとりの生徒と食事を共にする会長の姿だった。

 隣にいるのは。
 会長の隣でのん気な顔で笑っているのは、あの縞優生という一年生だった。

 は? なんで? どういうこと? 意味わかんないんだけど。なんで会長が縞クンと……。

 呆然とその光景を眺めていると、会長がふいに、縞クンの柔らかそうな頬をゆるりと撫でた。

 あの排他的でいつも不機嫌そうな顔をして誰も寄せ付けなかった会長が、唇の端に薄く笑みを浮かべて、甘ったるい雰囲気を垂れ流している。
 そして、会長に触れられた縞クンは、ほんの少し頬を赤くして、ゆるゆると笑っている。俺には見せなかった、照れた表情。嬉しそうな空気。

 吐き気がした。

 なんだかんだ言ってたけど、結局あの子もその他大勢のミーハーと何も変わらないじゃん。ちょっと他とは違うことを言っていい子ぶって会長のこと落としたんだ? 平凡のくせにどうやってあの会長を誘惑したんだろ 。ルックスでは無理だから身体かな? 普通のフリして、男にキョーミないとか言って、実はとんだ尻軽の淫乱だったってわけね。
 ていうか会長もあんな平凡に簡単に引っかかるとかウケるんだけど。上玉ばっか食いすぎてたまには珍味でも試したくなったとか? とんだ悪食じゃん。理解できない。俺だったら頼まれたって相手にしないけどね。

 感じたことのないようなひどい苛立ちと暗い感情が身体中に広がって、頭から指先まで冷えていく心地がした。

 これ以上こんな不愉快なものを見ていたら、俺は自分が自分でなくなるような気がして、足早にその場を後にした。

 それからずっと、会長の機嫌が気持ち悪いくらいにいい。

 表面上はほとんど変わらないけど、ふとした瞬間、その鋭い瞳をやわらかく細めて何かを見ているときがある。その視線の先を追うと、そこには必ず縞クンがいる。
 どういう心境の変化か、以前は仕事を口実にサボることも多かった授業にもよく行ってるらしいし、昼は縞クンと相変わらず一緒に過ごしているらしい。そして夜は、……夜には、縞クンが会長の部屋に出入りしているのをよく見かけるようになった。朝も見かけるので、毎日のように会長の部屋に寝泊まりしているようだ。しかも夜は寮の食堂には姿を見せないので、二人で部屋で食べているのだろう。

 ……俺には関係ないからどうでもいいけど。

 そんな生活は三カ月ほど続いた。

 新学期が始まって学年も上がり、入学式や新歓などで何かと慌ただしかった日々も過ぎてようやく落ち着き初めた頃、ひとりの転校生がやってきた。

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