それから数日後、やっぱりどうしても気になって、一年生の階までのこのこと来てしまった。

 なんて軽率な行動。なんて馬鹿らしい動機。
 周りからはチャラいとかユルいとか言われてる俺だけど、常識はちゃんとわきまえてるつもりだった。
 なのに一体自分は何をやっているんだろう。と、冷静な部分では思うのだけど、童心にかえったように妙にわくわくする心を抑えられなかった。

 ラッキーというか、お誂え向きに、E組の担任は生徒会の顧問だった。運は俺に味方している。生徒会役員である俺が顧問のもとを訪ねるのは、何も不審じゃないだろ。

 周りでキャアキャアと騒ぐ女子モドキな生徒たちにユルい笑顔を振りまきながら、俺は意気揚々と1年E組に突入した。

「え! し、ししし椎葉様ぁ!?」
「うっそぉ! 近くで見れる日がくるなんて夢みたい!」
「おおう、やべーなあれマジで同じ人間とは思えないくらいイケメンだわ」
「キャアアア! もう俺死んでもイイむしろ殺してえええ」
「皆の者もちつきたまえ!」
「おまえもな!」

 ドアを開けた瞬間に、E組はものすごい騒ぎになった。
 自分の人気は自覚していたつもりだけど、軽くヒいた。

「……えっとぉ、牧野センセに用があったんだけど、まだ来てないみたいだねー」

 表情筋に鞭打って無理やりへらっと笑うと、また一段と騒がしくなった。
 この中に、本当に縞クンもいるのかな。顔がわからない以上探しようがない。さてどうしようか。

「あ、そうだ! 縞は!? あいつどこ行った!?」

 収まらない騒ぎの中、生徒のひとりが言った言葉に、ぴくりと小さく反応してしまった。誰にも気づかれなかったとは思うけど。

「優生?」
「そうだよ縞だよなんであいつはこんなときにいねーんだよ!」
「なんで縞? あいつなんかあんの?」
「え、おまえ知らねーの? 縞のやつ生徒会大好きじゃん。あいつバカだからイケメンウォッチングとか言って集会んときとか双眼鏡持参してんだぜ」
「うっわ優生バカだな」
「ああバカだ」

 どこからか聞こえてきた複数の話し声に、無意識に口元がゆるんだ。
 俺は集会で縞クンを見つけられなかったけど、縞クンは俺を見てくれていたらしい。

 その光景を想像するとおかしくてたまらない。なんだか無性にむずむずする。その衝動のまま声をあげて笑いたくなるくらい。ああ、面白いなぁ縞クン。ますますどんな子なのか気になる。

 そんなことを考えていると、教室の後ろのドアから、ひとりの生徒が入ってきた。なんとなくその彼に視線をやる。

「ちーっす。どしたのみんな、なんか朝からすっげ盛り上がってんね。もしかしてついに誰かのチョコボールから金のエンゼル様が光臨なさったとか? 今夜はパーリィーか?」

 俺には理解できない話をしながら騒ぎの中心に向かっていく少年。

 うなじが隠れるくらいの長さの黒髪の、整ってはいるが目立った印象のない平凡な顔立ちをした少年。あえて特徴をあげるしとしたら、その眠たげというか、やる気のなさそうな瞳だろうか。そのだるそうな目元はなんとなく生意気っぽいかもしれない。
 おそらく男子高校生の平均くらいはあるだろう身長に、細身の身体。暖かそうなファーのついたヘッドホンを首もとにぶらさげ、コートのポケットに両手を突っ込んでふらふらと歩く姿は、どこにでもいる一般的な高校生のひとりに過ぎない。

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