リレー小説 | ナノ
血が、出なかった。
ぐさりと、ベッドに包丁が突き刺さる。
…はずし、ちゃった。
思わず力が抜ける。だって、覚悟を決めたのに。
「ぅえ…」
私はいつもそうなのだ。肝心なところでだめなのだ。
弱音を吐きそうになるけれど、押さえ込む。
今日こそ折原さんを殺すと決めたのだから、殺さなければ。
手に力を込め、包丁を引き抜く。
折原さんと、目が合った。
折原さんの手に突き飛ばされ、しりもちをつく。
その間に折原さんは部屋の外へ。
「折原、さん」
待って、くださいよぉ。
笑みを顔に貼り付けて折原さんを追う。
今日は逃がしませんよぉ。
* * *
追いかけて追いかけて追いかけて。
折原さんを追い詰めた。
風が、髪をたなびかせる。まるで決闘のシーンみたい。
月に照らされる屋上で、改めて笑顔を張りなおした。
「折原さん、愛してるから死んでくださぁい」
「俺はまだ死にたくないんだけど?!」
「そんなの関係ないですよぉ」
相手の意思は無視して、自分の意志を押し通す。
それが、愛ってものでしょう?
にっこり、にっこり、笑顔は消さずにそう呟く。
だって、愛なんて一方的なもの。両方向のものじゃない。
「でも、この愛は両方向ですよねぇ。だって折原さんは私を愛してるんですからぁ」
「…確かに俺は人を愛しているけど、君という個体に対して愛してるなんていったことないと思うんだけど」
「そう、でしたっけぇ?」
自分の記憶をさらう。
そうだっただろうか。そうだったのかもしれない。
それでも今はそんなことどうでもいいことで。
愛は一方的なものだから、相手の思いはどうでもいいのだ。
「…じゃあ、さっさと殺されてくださいねぇ」
包丁を構えて、折原さんを見つめる。
愛しい、愛しい、折原さん。ずっと私が愛してる人。
今度こそ、殺しますからねぇ?
殺害宣言
(愛でるために殺しましょうか)
あとがき
無言で土下座してみる。ごめんなさい。
そして意外と続いた。みすてりー。