セッツァーは毎日ブラックジャック号のエンジンルームに訪れて、愛機の調整をしていた。
珍客を迎えることになり、艇内は騒がしくなったが、この逢瀬を欠かすわけにはいかない。いざという時機嫌を損ねてもらっちゃ困る。相棒は繊細なのだ。

いつものように階段を降りると、見慣れぬ金髪がしゃがみこんでいるのが目に飛び込んできて、思わず眉を潜めた。
「おい、素人に触ってもらっちゃ困るぜ」
国王様が何の用だ、そう言いながら、隣に立って彼を見下ろす。
「これからメンテナンスかい?俺にも見せてくれないか」
「あ?」
きらきら。そう擬音がつきそうなブルーが、こちらを見上げていた。
一人称変わってねぇか…。
いくらあのフィガロ城の主とは言え、国王自ら機械をいじるようなことがあるのだろうか。
「好きなんだ。城の整備も自分でやってるし、武器をつくるのも趣味でね」
疑問が顔に出ていたようで、エドガーは照れたように笑う。
「あの城の整備を?自分で?」
「ああ。機械師団の総帥も兼任してるんだ」
そりゃあ感心だ。彼の隣に同じように屈み込む。心地好い歯車の回る音。
一拍おいて、疑問が溢れた。
「どこに動力室があるんだ?あれだけの巨大な城を動かすんだから相当の規模だろ?速力…最大速度は?どれくらいの潜航に耐えられるんだ?城の強度は?」
俺が一息に放った質問に、彼はひとつ瞬き。
次の瞬間、花の開いたように笑った。
喜色満面と言うのだろうか、この顔を見て嬉しいのだとわからないヤツはいないだろう。
あまりにも鮮やかな笑顔と、きらきら、輝くブルー。つられて俺も、きっとこいつと同じ瞳をしている。




ロックが夕食の買い出しを済ませ、マッシュがその支度を終えてもなお、セッツァーが動力室から顔を出すことはなかった。何故かエドガーまで居ない。
仕方ない、ロックは立ち上がり階下を目指す。セッツァーを呼ぶついでに、エドガーを探さなくては。
しかし、機械のたてる轟音とは別の響きを感じとり、ロックはおやと首を傾げた。
「やはり素晴らしいな、この飛空艇は」
「そうだろう、次のメンテナンスには付き合わせてやるぜ!」
「本当かい?それは素敵だ」
「ああ、部品の大半はアンタんとこに世話になってるしな」
「ふふ、当然だ。こんなものうち以外に作れるはずがない」
「その点に関しちゃあ認めてやる」

……呆れた。
ひときわ目立つ金と銀、ずいぶんと大きな子供が、ふたり。
「ああフィガロも君に実際に見てもらえたら!」
「良いぜ、すぐにでも発つ!」

「その前に夕飯、な」
びくり、揃って揺れた背中。警戒心の強そうな二人だが、ロックの存在に全く気付いていなかったようだ。
同じ顔をして振り向くものだから、思わず吹き出してしまった。邪魔をして悪かった、でもせっかく作ったメシが冷めるのは大問題だぜ。

片や、もうそんな時間か、と恥ずかしそうに。片や、これだから集団行動ってのは、と舌打ちをひとつ。
でも互いに合わせた視線はきらきら、いつもよりも幼い。
並んで階上へ向かう背中、ゆるく揺れる金と銀に、ロックは目を細めた。
眩しいなぁ。声に出して呟けば、自然と頬が弛む。
良いじゃないか、その熱が冷めないうちに、どこまでも飛んでいったら。
彼らにつられて高揚している自分に気付き、ロックは更に笑みを深くしたのだった。

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