ミンウin異説
シリアス。「なにも」とうっすら繋がってます。
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夢をみた。元の世界にいた時から何度もみた夢で、この世界に来てからも時折みるのだ。
流れる涙に目をさます。決まって自分は、どこかに腕を伸ばしている。
それが何を意味しているのかわかるはずもなく、目覚めが悪い、嫌な夢だ、ただそう思って再び布団に潜っていた。
全て思い出した今ならわかる。これは、穴だ。埋め忘れた穴。埋める術をなくした穴。

俺はいつものように手を伸ばしていた。そしてその先に、幾度も望み、求め続けた姿がある。
奇跡、なんて
信じることをやめてしまっていた。それを無邪気に信じるには、あまりに多くのものをなくしてしまったから。
穏やかに眠るミンウ。いつもそこを覆っている白布は今はなく、飴色の頬にそっと触れる。あの頃とは違うのだ、もう、躊躇う理由はないのだ。
影を落としていた黒い睫毛が震える。少しずつあげられる目蓋、ゆっくりとあらわれるブルー。深く、それでいて澄んだ色。きれいだ。俺はいつだって、この青から目が離せなかった。
「フリオニール」
寝起き独特の掠れた声が名前を呼ぶ。それを紡ぐ薄くて、でも柔らかい唇も、ふわりと絡む髪も、無駄なく引き締まった背中も、意外と頼りない肩も、しなやかなに伸びる指も
優しくて、力強くて、臆病で、かなしい貴方の、心も、全部。
貴方の存在、その全てが。

「好きだ、ミンウ」

こんなに、好きなんだよ、ミンウ
その言葉は幼い俺が思っていたよりもずっとずっと優しくて、ずっとずっと辛かった。
空みたいな、海みたいなブルーから、透明な雫がこぼれ落ちるのを見た。彼の涙は初めて見たな、とぼんやり思った。

「ありがとう」

微笑んだ彼の瞳から光が伝う。
ありがとう、フリオニール、ありがとう。そう繰り返す貴方と同じように俺も視界が滲んだ。
こうして伝えられたから、あのとき伝えられなかったから、それは止まらない。心の中のいろんなものを剥ぎ取って、ただ静かに零れ落ちていくのだ。
陽の光が差し込むまで、ずっと手を握っていた。
そして、朝になっても彼はそこに居た。しっかりと俺の手を握って微笑んだ。夢じゃない。ああ夢じゃ、なかった。


奇跡、なんて
俺にはもう訪れないと思っていたんだ。

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