次元城で一人風を楽しんでいたティーダだったが、曲がり角の向こうによく知った気配を感じて足を止める。
(オヤジ…!)
向こうはこちらに気付いてないみたいだ。それにもうひとつ、カオス側の気配。
思いがけず父と拳を交える機会を得たティーダは喜色満面である。
(よーし先制攻撃ッス!)
驚かせてやろう!フラタニティを構えそろそろと近づく。角を曲がると同時にえいやっとスパイラルカットを仕掛けた。
「たたっきる!」
得意になったのも束の間、あっさりと攻撃が防がれて慌ててバックステップ。目の前にいたのは父親ではなく、もうひとつのカオスの気配だった。
涼しい顔で身の丈を越える長刀を構えている、風になびくのは艶やかな銀糸の―――。

「………セフィロス?」
あまりの違和感に本人か確認してしまった。こんなの二人いたら困るけど
「お前はティーダ、だったか。改めて見ると確かに…似ているな」
「おうよ!でもこいつが泣き虫でよ、なぁ、ジェクトさん家のおぼっちゃま?」
え?ええ?えええ?
オヤジのセリフも耳に入らないほどオレは動揺していた。だってなんか、セフィロスが普通なのだ。会話が成立している。微笑みまで見せて……。

「オヤジ!その人本当にセフィロスか?」
オレの至極真っ当な質問に、お前も気付いたかとオヤジは豪快に笑っている。
「なんかよ、記憶が戻ったらしいんだわ」
「記憶って…」
それはこの世界ではよくあることだ。何で忘れてたんだろうと思うような大事なことや、別に思い出さなくてもいいような些細なことまで、ふとした瞬間に戻ってくる。
「ああ、今までは記憶が殆ど無かった。漠然と憎しみを抱いていたクラウドを追っていたが……どうしてあんなことをしていたのか、わからない。」
夢から覚めたような気分だ。そう言うセフィロスの目は確かにスッキリしていて、今までとはまるで別人である。てか喋れた。すごいこのセフィロス会話できる。
クラウドが前に熱弁を振るっていた英雄時代のセフィロスは、こんな感じなんだろうか。

「そうだったんスか…じゃあクラウドは」
一番聞きたかったところを言い終える前に、オレとセフィロスの間隔を広げるようにしてメテオレインが降り注いだ。
「クラウド!」
「ティーダ、無事か!」
バスターソードを構えたクラウドが走り寄る。と、当然目に入る。
いつもの薄笑いではなく、真面目な顔をしたセフィロスの、姿が。

「…………………」
口を開けて固まるクラウド。イケメン台無しである。そしてどこからか、ブレイブブレイクの音がした。

「なんか事情があるみたいでさ、いつものセフィロスじゃないんだ」
「…………………」

三人は知る由もないが、この間クラウドの脳内では壮絶な自分会議が開催されている。
「セフィロスさんが帰ってきた……だと……」
「まさに至高!サラサラポニテこそ正義!」
「いやでもこれはジェノバであって」
「そうだ俺は見た目には惑わされない!」
「いくら姿は俺たちのセフィロスさんとは言え中身は…」
「で、でも、セフィロスさんだぞ!」
「くっ…なんという破壊力…」

「クラウド…」
「はっ!セフィロス、なんのつもりだ…!」
「考えれば考えるほど、オレにはお前を憎む理由などない」
「え?」

「自分でも、よくわからないんだ……悪かったな」
ストーカーとしか思えない行動や恥ずかしい言動の数々を思い出し目を伏せるセフィロス。
本日二度目のブレイク音が響き渡った。
「良かったなクラウド!これでストーカー被害にあわずにすむッスよ!」
「な…な……」
俯いてぶるぶると震えるクラウド。ティーダは尋常じゃない空気を感じとり僅かに後退る。
なんだなんだ、ここは喜ぶとこだよな?

「セフィロスもちゃんと謝れて良かったじゃねぇか!」
「ああ。……許して、くれるか」
セフィロスはクラウドを申し訳なさそうに見つめている。
「まさか…まさか本当に…セフィロスさん…?」
「そうだが」

「う…うわあああああ!!!!!」
響き渡る異様な絶叫。美声台無しである。
「ク、クラウド!?」
「俺!俺っ…!あああああ異説万っ歳っ!!!まじGJ!!!セフィロスさんだよ!!ジェノバじゃない!セフィロスさんがいる!!!!俺たちの英雄があああああああ!!!!!」
ちょ、今度はこっちがおかしくなったぞ!
突然膝をついて地面を殴り付け始めたクラウドに、セフィロスが完全に引いている。てかオレも引きましたごめんなクラウド!だっていつもクールキャラだったじゃんかよ!
「おーいクラウド!戻ってこーい!」
いくら呼び掛けても意味不明なことを叫んでいるだけで反応しない。

「オ、オヤジ……。どうしよう、クラウドが壊れちゃったッス…」


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