※直接の続きではないので読まなくても大丈夫ですが、一応『スカイブルーに手を伸ばすの』を前提とした話です。



ブラックジャックのエドガーの部屋で、お互いにさっさとシャワーを浴びて着衣も済ませた。もう情事の跡と言えばシーツの乱れくらいだろうか。
「どうしてそんなに苛ついてるんだ」
何度か行為を繰り返したが、二人はいつも無言だった。にも関わらず突然掛けられた言葉に、部屋を出ようとしていたセッツァーは振り返る。
「お前のせいだ」
ぱちり。青い目が瞬いた。
「俺のせい?」
聞き返されて、舌打ちをひとつ。その続きを考えていたわけではなかった。口をついてでた言葉だった。最近、特にそうなのだ。何もかもわからなくて、だからこんなにも腹が立つのだろうか。

この行為のことを、エドガーがどのように思っているのか。それさえ知らない。ただ求められれば彼が拒絶することはなかったし、セッツァーもまた誘いを断ったことはなかった。自問してみても、明確な答えは出ないのだ。何故、どうして、俺達はこんなことを続けているのか。
苛ついたから、抱いた。最初は、半ば強引に。しかしその後もエドガーの態度が変わることはなく、二人で飲み、そして気が向いたらセックスをした。なんとなくだ。やはり何もかも、わからない。何がわからないのか、それすらも。

「俺が何かしたかな?」
エドガーは困ったというように肩をすくめる。この男が何を考えているのか、俺にはわからないのだ。
ただこいつが自分の弱みを上手く見せられない奴だと言うことは、よく知っていた。きついときほど、それを隠そうとすることも。それはきっと弟の居なかった10年間に身に付いてしまった習慣なのだろう。自分を守るために、身につけざるを得なかったのかもしれないが。

今もそうだ。この男は何かを隠しているのだ。そうして傷ついている。何があったのかは知らないが、どうせ国のことなのだろう。
彼の双子の弟などは何も言わずとも全て分かって、俺の知らないところで、優しく兄貴を労っているに違いない。だが俺にはわからないし、そんなことは出来やしない。優しく、なんて。
それなのに、エドガーは俺の元へやってくるのだ。優しくなんて冗談じゃない。ただ手軽に欲の処理をするだけの関係。俺たちの間には、それしかないというのに。

「可愛い弟のところに行きゃあ良いだろうが。何が不満なんだよ」
ほんとうは、弟のところへ行きたいくせに。どんな理由があって彼がそれをしないのかは知らないが、そう思っていることだけは、間違えようのない事実だった。
「不満なんてある訳ない、俺は…」
やっと笑うことをやめたエドガーは、目を伏せる。言葉が続くことはなく、沈黙だけが流れた。彼がその続きを口にすることはないということだけは、はっきりとしていた。

「俺を逃げ場所にするのはやめろ、迷惑だ」
無性に腹が立つ。エドガーに対してなのか、自分に対してなのか、もうわからない。
そんなつもりじゃなかった、と。目を伏せたまま呟かれた言葉は、半ば独り言のようで。
彼は何も話そうとはしない。人の領域には踏み込んでくるくせに。本当に狡い奴。ああでも、それが苦ではなかった。一体、いつから。

熱くなっている自分に気づき、髪をかきあげる。これでは、まるで。
まるで、何もしてやれない自分に、腹を立てているようだ。まるで俺を選べと、目の前の男に迫っているようだ。仕方なくではなく、俺を、選べと。

長く息を吐き、煙草を取り出す。そう。そういうことなのかもしれない。だから、こんなにも。
エドガーはやはりこちらを見ることはなくて、火をつけた煙草に、文句を言うこともなかった。だから彼が嫌うように、この香りが染み付いてしまえばいいと、この部屋にも、彼自身にも、と。

そう、思うのだ。
まるで、焦がれているように。


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