きっと、これは恋情だったのだ。
快楽に白く染められていく頭の隅で、それでもエドガーは考えずにはいられなかった。
「あ、あ…」
潤滑剤代わりに注がれたワインが水音をたてる。固く閉ざされていたそこは、三本の指にもう随分と慣らされていた。指の腹が弱いところを掠めると喉が反り、自分のものでないような声が漏れる。シーツを握り締める両の指も、いつの間にか白くなっていた。
「声、抑えろよ。大事な弟に聞こえても知らないぜ」
それを見て、男は銀髪をかきあげながら、ひどく愉快そうに唇を歪めるのだ。

セッツァーは全てを持っているように思えた。空を翔る翼と、自由と。抱くのは、あわれな羨望だ。自分はあの砂漠の地から離れることは出来ないと、誰よりもわかっているのに。結局は、空を羨むよりもずっと、かの地を愛しているのだから。
しかしエドガーにとって男は、自由の象徴であった。
飛空艇のことを話すとき、大空について語るとき、彼のアメジストの瞳は少年のように輝いていた。きれいだと思った。その瞳に、きっと俺は惹かれたのだ。
「力抜きな」
「…っく、ぁ…」
指が引き抜かれ、彼自身が宛がわれる。一気に突かれ、猛烈な異物感と圧迫感に一瞬息が出来なくなった。彼の手が萎えかけた前に伸び、擦る。
「は…っ、くる、しい」
「待ってな、よくしてやるから」
街に出れば女など、いくらでも捕まえられるのだろう。しかし彼が戦闘以外で街に出ることは稀だった。当然ながらセッツァーが居なければ飛空艇を動かすことは出来ず、先の見えない旅ゆえに、彼にはなるべく艇の中にいてもらわねばならなかった。だから不満も溜まっていたのだろう。自分は艇の中にいて、男だから後腐れもない、手軽な相手だ。それだけなのだ。彼は今日苛立っていた。その鬱憤を晴らせたかった。それだけの、ための。
「動くぜ」
「…っ」
それでも良い。優しくされるよりはずっと良い。優しさは恐ろしいから、俺は動けなくなくなってしまう。
それで良いと思っていたのに、触れてくる彼の手は暖かくて、柔らかかった。嘘みたいに。逃げ出してしまいたくなるほどに。

「っ、あ、あ」
苦しかったはずの吐息に色が混ざり、段々と痛みも快楽に書き変えられていく。腰の動きはひたすらに快楽を追う。前も同時に触れられて、抉られるたびに生まれる熱が、出口を求めて暴れている。
「いいぜ、イけよ」
その声を聞き終えて、彼の掌に欲望を吐き出した。熱い吐息と、ずるりと引き抜かれる感触。どうやら外に出したらしい。

行為の前と同じようにセッツァーは、仰向けになって肩で息をする俺の髪をすくって耳に掛けた。そして俺はまた、逃げ出したい衝動に駆られるのだ。そんなふうに触れられたら、どうしていいかわからない。手の甲を当てて目元を覆う。勘違いをしてしまいそうで、怖かった。
「……満足、したのか」
「ああ、まぁな」
温度はすぐに離れていった。すぐ側で、衣服を整えている気配を感じる。また来ると、そう言って彼は出ていった。
どこかで馬鹿な期待をしている自分に気付き、苦笑する。黙ったまま一線を越えてしまった今更、想いを伝えようなんて考えは、少しもないのに。この私が誰かに心を寄せるなんて、それは重荷以外のなにものでもないのだ。まして自由を愛する彼に向かって、そんなことを口にできるはずがない。
急に静まり返った部屋で、忘れかけていた雨の音がうるさく響いた。
泣きたかったのかもしれないが、形になったのはやはり乾いた笑いで。ああ自分らしいと、また笑った。

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