ああクソ、苛々する。半分ほどになったボトルを引っ付かんで、セッツァーは椅子を蹴るようにして立ち上がった。乱暴にドアを開け、皆が既に寝静まり、明かりの消えた廊下を曲がる。
目的の部屋の扉からはまだ光が漏れていた。ノックなしに勢いよくそのドアを開けると、机に向かっていた背中が、びくりと振り返る。
「セッツァー…」
ほら見ろ暇じゃねぇんだろう、ペテン師が。大股で近付き、胸ぐらを掴んで無理矢理立ち上がらせる。よろめくエドガーを突き飛ばすようにして、ベッドに投げ出した。組み敷かれたブルーが、困惑に揺れる。
「なに、するんだ」
「苛つくんだよ、てめぇを見てると」
返事は無かった。彼は少し眉を下げて笑う。こんなときでも笑うんだな、アンタは。

窓を叩く雨音と、吹き荒ぶ風の音が、やけに大きく響いている。もう随分と長く、青空を見ていないような気がした。
見下ろすと、真っ直ぐに此方を見据える瞳。あおい。そう、こんな色だ。俺の空は、こんな、色だ。
その青に吸い寄せられるようにして、唇を重ねた。触れるだけの、子供の遊びのようなキス。
「……酔ってるのか」
「ああ酔ってる」
何も考えちゃいない。ただの勢いだ。飛びたい。風を切って、雲を越えて、空へ。何処までも青い空へ。
「抱かせろよ、エドガー」
「酔ってるのなら部屋に戻れ」
「聞こえなかったか」
露骨に顔がしかめられた。やっと剥がれ落ちた笑顔に、セッツァーは愉悦を感じる。嫌がらせだ、これは。自分を苛つかせたことに対する、仕返しなのだ。
「冗談はよせ」
「本気だ」
ふざけないでくれと、ぐいと肩を押し戻される。それを拒否するようにさらに距離をつめ、耳元の柔らかい金糸に触れる。
「拒否権はないぜ。飛空挺、必要だろ?」
その一房をゆっくりと耳に掛けてやりながら、息を吹きかけるようにして囁いた。
整った容貌の眉間の溝が深くなる。
「…好きにしろ」
「そうさせてもらう」
言外に、それで仲間に迷惑が掛からないのなら、セッツァーが満足ならば、という響きを感じて、わけもわからず、また腹がたつ。気に食わない。こんな強引なやり方に、文句ひとつ言わないお前が、どうしようもなく、気に食わない。

噛み付くようにして唇を貪る。好きにしろという言葉通り、エドガーはあっさりと舌の侵入を許した。整った歯列をなぞり、舌を絡める。それに応える動きは巧みだ。少し気をよくして、セッツァーは咥内を気が済むまで味わった。

「……っは…」
銀糸をひいて顔を離し、少し上気した頬を撫でる。それがなんだか恋人にする仕草のようで笑えた。これは、嫌がらせなのに。
再び開かれたブルーが逸らされることはなかったが、そこから、感情を読み取ることはできなかった。何故だかやけに、胸が締め付けられるような気がして、乱暴にエドガーのシャツを剥ぐ。
「抵抗、しねぇのか」
「するなと言ったのはそっちだろう」
ふぅん。言いながら露になった首筋に、鎖骨に、キスを落とす。突起を口に含めば、ひくりと身体が揺れた。
これでもう、彼がきらきらと瞳を輝かせて笑いかけてくることは、無くなるのだろう。そう思うと少しだけ、少しだけ、惜しい気がした。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -