五日。もう五日だ。夜になろうというのに、いっこうに止む気配もない。飛空挺が飛び立てないほどの嵐が、五日も続いている。

抜けるような青い空を風を切って飛ぶのが、最高に気持ちが良いのだ。勿論雨は好きじゃない。飛び立てないような嵐なら、尚更だ。
轟々と響く風の音を聞きながら、絶え間なく窓ガラスの向こう側を伝い続ける雨の雫をなぞった。冷たい。セッツァーはここ数日で何度目かわからない溜め息をつく。翼が濡れては、羽ばたけない。相棒であるブラックジャックの嘆きも聞こえるようだった。

規則正しく二回、ノックの音に振り返る。入れよ、そう言うと、予想と違わぬ金髪がそこに揺れていた。
「のまないか」
笑顔と共に、二つのグラスとワインボトルが掲げられる。頷くと、慣れた仕草で彼は挺長室のテーブルにつく。
気紛れにカードを弄り、他愛のない話をしながら二人で飲むことは多かった。歳が近く酒が強いのと、何より機械の話が出来るからだ。しかし今日ばかりは世間話をしに来たのではないのだろう。他人の機微にはどこまでも聡い奴だ。

言葉少なに乾杯を済ませ、暫く二人とも黙ってグラスを傾けた。エドガーは此方が切り出すのを待っているらしい。
何も、話したくはなかった。
「俺に構ってる暇なんざねぇだろうか、国王様」
「暇じゃなかったら飲みになんて来ないさ」
何も知らぬと言うように、へらりとエドガーは笑う。

仲間たちは小休止といった様子でそれぞれこの嵐を楽しんでいた。彼らの輪から少し距離を置くのはいつものことだが、その喧騒に苛立っているのをエドガーに勘づかれたのだ。あの時このブルーと目が合わなければ、うるせぇと子供相手にみっともなく怒鳴っていたかもしれない。

「俺に構うな、鬱陶しい」
吐き捨てるように呟くと、目の前で彼が静かに目を伏せたのがわかった。
「放っておいてくれ」
そう言うと、目を伏せたまま、わかった、邪魔したな。微笑さえ浮かべて、どこまでも静かな声だった。最初から部屋に招き入れなければ良かったのだ、今更気付き、心の内で悪態をつく。
言葉通り彼は背を向け、挺長室を出ていった。二つのグラスとボトルを残して。年代物の、赤だった。


こういうときは安酒を浴びるように飲んで、さっさと眠ってしまいたい。しかしエドガーの置き土産は、そうするには惜しいほど美味かった。この液体を舌の上で転がせるほどの余裕は無いというのに。無茶に飲んだら体に悪いとでも言いてぇのか。こちらを追及するでもないその気遣いに、無性に腹が立った。
ワインを飲みながらつらつらと昼間のことを考える。まずはこの雨。言うまでもなく苛々する。次に仲間たちの弾んだ声。俺は相棒を託児所にした覚えはねぇ。そして、何よりエドガーだ。あいつの薄っぺらいくせに、完璧としか言いようがない笑顔。わかってしまったのだ。それが完璧でありながら、実のない仮面であるということ。機械について、フィガロについて誇らしげに語るときのきらきらと輝くあの瞳を、一番の鮮やかな笑みを、既に知ってしまったから。どうしようもなく、わかってしまったのだった。

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