抜け出す
――速く。
「ハァ……ハァ……!」
急げ、急げ、もっと速く。
俺の目から見れば大仰過ぎにも思える真っ赤なカーペット、差程長くはない廊下の癖して何見栄張ってレッドカーペットなんか敷いているのか。おかげで走れども走れども外に辿り着かないじゃあないか、履かされたヒールがカーペットに引っ掛かって走りにくい。その場を回避する為だけに着たドレスは大股に走れて良いけれど、何て言うのか、フレアスカート? みたいで足に纏わり付く。
さっき通り過ぎた部屋はクラシックコンサートと洒落込んでいた、気の利くボーイさんのおかげで何とか通り抜けられたけど、なかなか辿り着かない外という空間が恋しくて、俺は思わずひとつ舌打ちをした。
「――……!」
カーペットが切れた。やっと、やっとだ、やっと外に出れる。
外には先の部屋同様に沢山の人が居たけれど、もう構うもんか。頭に付けられたティアラを、日本特有の玉砂利の庭へ投げ捨てる。何処か驚いたように、そして煩わしそうに俺を見るドレス姿の淑女やスーツ姿の紳士達。今気付いたことだが、来た時は降っていなかった雨粒がぽつり、またぽつりと俺の頭上から降り注ぐ。
――だから何だってんだ、俺の足が止まると思ったら大間違いだ。
砂利に引っ掛かりヒールも脱げた、裸足になっても俺は走り続ける。どれだけみすぼらしい姿になっても、俺は走り続けなければいけないんだ。この先に居るはずだから、このことを教えなきゃいけないから。
「――……居た!」
やっと見付けた、その後ろ姿。
「――“ ”!!
雨音が強過ぎて俺の耳には届かなかった自身の叫び、けれど悲痛にも似た俺の叫びは、――確かに届いていたらしく。
ぴたりと立ち止まり、何処からの声かと辺りを見回す。その際も走り続けた俺は、やっと、――彼女の元へ辿り着いた。
裸足だったから勢いが消せなくて、俺はそのまま彼女へと追突。相当の勢いがあったんだが――良かった、受け止めてくれた。
「ハァ……、やっと……見つけた」
「――どうしたの、その格好」
最初こそ驚いていた彼女、だが、慣れないヒールでの走り過ぎで今にも崩れ落ちそうな俺をしっかりと支えつつ、そうやって笑った。
「やむなく、だ」
「ふふっ、似合ってます」
「やめてくれ」
冗談でも止してくれ、こんな服、二度と着たくないんだから。こんな服を着てでも来たのは――そう、
「――お前に知らせなきゃいけないことがあるんだ」
この危機を、お前に伝えなきゃいけないんだ。本当は伝えない方が、お前は悲しまないでいられるのかもしれない。
でも、それでも、
「傍に居るから、聞いて欲しい」
お前の為に。
唯一力の入る両腕で彼女を抱きしめて、俺は口を開いた。
―――
先々日くらいに見た夢の話でした。
ちなみに主人公は男だよ、ドレス着てるしヒール履いてるが(何の夢だよ)
(2011.07.09. 浅井)
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