无に成り代わる
※前サイトに足を運んでくださる方へのお詫び夢
「花礫…大丈夫…?」
「うっ…せぇ…ゴホッ!どっか行ってろ…!」
あークソッ、サイッアクだ…
まさか風邪引くなんて…ここ数年、風邪とか引かなかったからどんなもんか忘れてたけど結構辛い。
原因はぜってーあれだ、昨日の不運が続いたせいだ…。
いくら体が強くても、朝起きたら布団無くて、シャワー浴びようとしたら水で、挙げ句の果てには滑って川に落ちるなんて…これは流石に風邪引く。
「花礫、辛い…?」
「…ゴホッ」
んで?
なんでこいつはいつまで経ってもここにいるワケ?
さっきツクモや與儀に散々自分たちの部屋に来いって言われてなかったか?
「いいから、さっさとツクモの部屋にでも行けよ…っ」
不運とはいえ、自業自得っちゃー自業自得だし、こいつに移ったら與儀やツクモがウルセェ…。
だからさっさと出てけっつーの。
「…分かった」
今日はやけに物分かりがいいな。
でもまあ一人のが気楽だし、誰にもメイワクかけなくて済む。
だから、早く…
「!…花礫?」
「は、」
なんで…俺、こいつの袖掴んでんだ…?
なんで…
「花礫、大丈夫」
ナマエはそう言って柔らかく笑った後、俺の手を握った。
「違っ…!出てけって言ったろ!…ゴホッ!」
途端にさっきの信じられない行動が恥ずかしくなり、俺はナマエの手を振りほどいた。
「(…あ、今のはマズったか…?)」
ナマエは一瞬驚いた顔をしたが、何事もない様に再び笑った。
「大丈夫、傍にいるよ」
「っ…」
普段ならありえない様な穏やかな声、表情。
風邪で弱っているせいか、何故だか無性に泣きたくなった。
…思えば、何も聞かないし、言わない。
いやあえて聞かねぇのか…?
まあこいつが何を考えているか分かんねぇが、何も触れて来ずただ、傍にいる。
こういう奴は初めてで、未だにどうしたらいいか分かんねぇ。
そう、利用されるかされないか、食うか食われるか、生きるか死ぬかそんな世界で生きてきた俺は俺以外の人間は信用しないし、利用してやる。
…椿達も、最初こそ疑ったが次第に俺には害はないと判断した。
寧ろ、椿達は利用される側だった。
結局人間は一人でどうにか生きていかなきゃいけないんだなと思ってた。
…思ってた、のに…
「…まじでなんなんだよお前…」
顔を覆い隠し、ぽつりと呟いた。
「…花礫が、寂しいって…」
「はぁ!?俺が寂しい?ありえねぇだろ!…ゴホッ!」
今度は勢いよく起き上がり、先程のナマエの言葉を否定する。
勢いが良すぎて若干咽せた。
「聞こえるの。…花礫が、いくら口で違うって言っても、体は全部本当のこと言ってる。」
「ーっ!」
その言葉すら否定したかったが、今までのナマエの行動を見ている限り聞こえるというのは本当なのだろう。
だから尚の事恥ずかしい…いや、恥ずかしいを通り越して死にたい、だ。
つまり今までの虚勢(俺は虚勢だとは思っていない)みたいな奴はナマエには全部嘘で、本当は寂しいと言っていたって言う事か…
「あー…死にてぇ…」
「えっ!?花礫死んじゃうの!?」
これ以上顔を見られたくない俺は、布団を頭から被った。
「うー…花礫死なないでぇ…」
放置しようかと思ったが本格的に泣きに入っているみたいなので俺は仕方なく、仕方なく布団から顔を出した。
「はー…風邪くらいで死にゃあしねーよ」
「でも、花礫辛いって…」
「っち…!あーあー分かった分かった!もう勝手にしろ!」
ヤケクソになった俺は布団をどけ、ナマエに手を差し出した。
「…?」
きょとん、とするナマエに俺はもうこれ以上どうしたらこいつに分からせる事が出来るのか、今度真剣に一回考えてみようかと思い始めてきた。
「ーっ!お前が泣いてるから仕方なく、仕方なく繋ぐんだからな!?」
風邪で喉も結構痛いのにも関わらず、恥ずかしさ故か声がデカくなった。
「ありがとう、花礫。…傍にいるからね」
ナマエは俺の手を握りながら、花が開くように綺麗に笑った。
その笑顔を見た俺は、幸せってこう言う事なのかもしれないと、らしくもない事を思っていた。
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