ごちゃ混ぜ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


手フェチなあの子



私は造船業で有名なウォーターセブンのガレーラカンパニーで働いている。
働いている、といっても勿論船大工なんか女の私が出来るはずないので、事務員をやっている。
仕事はないかと探していた所、ガレーラカンパニーで事務員を募集していたので、応募したら採用されたというミラクルが起こった。
この町でガレーラカンパニーと聞けば誰もが知っているとても大きな造船会社である。
ここに入るには相当の実力と技術がないと入れないくらいのとても大きな会社だ。
世界政府の御用達でもある。

そんな有名な会社に事務員という形でも採用されたのはもう奇跡に近い。
採用通知が来た時には三度見くらいした後、泣きながら喜んだのを覚えている。
仕事内容は他の会社の事務と何ら変わりない仕事をこなしている。
私以外にも人がいるのかと思いきや、事務員は私一人だけだったのが会社に入ってからの一番の驚きであった。
しかしよくよく考えてみたら他に人がいないのも納得だった。
ガレーラカンパニーには、それはそれはとても優秀な船大工が何百人もおり、その頂点には社長であるアイスバーグさんとその秘書のカリファさんが居る。
アイスバーグさんはとても頭の良い方で、市民や船大工さんからの信頼もとても厚い。
その秘書であるカリファさんもとても出来る方で、アイスバーグさんが何か言う前に全部済ませてしまっている。
そのくらい社長とその秘書は出来る方なので事務員なんか雇わなくても手が回るのである。

そんなとてもすごい会社に採用された事はとても喜ばしいが、雇わなくても手が回るのではと考え、恐る恐るカリファさんに尋ねてみた。
すると流石に細々した事には手が回りきらなくなってきた、との事だった。
仕事の内容等は主にカリファさんから教えてもらっており、なんとか楽しい毎日を送ってる。

そんなある日、私はお昼休憩に行こうと外に出た時だった。
私が居る部屋は本社のはじっこらへんにあるので、船大工さんとかには滅多に合う事はない。
私が入社した時やその後にもほとんど顔を合わせては居ない。
その日はとても天気が良く風も丁度いい感じに吹いていたので、私はお昼ご飯を持って外で食べようと思っていた。
外に出ると気休め程度にベンチが置いてある所がある。
周りは特に何もなく、本当にただぽつんとベンチがあるだけだ。
そんな事を考えながらそのベンチに向かっていると、何故だか今日は先客が居たようだった。

「…?パウリーさん…?」

その顔は、よくよく見るとガレーラでも有名な1番ドック艤装・マスト職職長のパウリーさんがベンチで横になりながら眠っていた。
パウリーさんといえばなんでも借金があるらしく、よく町中を借金取りに追われている所を見た事がある。
そんな彼がなんでこんな所で眠っているのか…

「疲れてるのかなぁ…」

少しだけ近くに寄って(それでも1m位離れているが)しゃがみこんでみる。
なんでも最近造船所の方では大量に船の注文があったらしく、船大工さん達は慌ただしく船の製作に取りかかっているそうだ。
会社や船大工さん達にとったら喜ばしい事なのだろうが、こんな所で眠るくらい忙しいのだろうか…?
そんなことをふわふわと考えているうちに、パウリーさんの手が私の目にとまっていた。
実の所私は手フェチである。
変態的に好きと言うわけではなく、どっちかと言うと愛でていたいという想いが強い。(変な意味じゃないよ!!)
中でも職人さんの手が特に好きで、自分で写真を撮り始めるくらいには好きである。
あのごつごつとした手で、あんなに美しい物を作るなんて職人さんの手は神の手か何かなのではと思う。
…いや、美しい物を作り出す手が神の手である事は最早明白であるし、職人さんの手についている小傷すら美しく見えてしまう私は相当な手フェチだと自覚している。
そんな手フェチな私だが実際に触った事はまだない。(変な意味じゃなく)
職人さんというのはその道一筋な人が多いせいか、変わり者が多い。
私みたいな一般人が触れてはいけない領域だとすら思っている。

そんな密かに憧れていた手が目の前にある。
触れなくても、じっくり見るくらいならいいだろうか…。
そう思い、ついに意を決した私はぎりぎりまで近づき、寝ているパウリーさんに近づいた。
パウリーさんは仰向けになりながら片手で顔を隠すように寝ているので、もう片方の手はベンチからぶらりと垂れ下がったいた。
私は垂れ下がっている方の手をまじまじと覗いてみた。

…ああ、やっぱり職人さんの手はとても綺麗だ。
手のひらについている傷や、微かに香る木の匂いや金属の匂いなど船大工ならではの手をしていた。

「…、」

もうそれは本当に無意識だった。
私はいつの間にか座り込んで目の前にあるパウリーさんの手を触っていた。
起きてしまうという考えは何処か遠くへと押しのけ、優しく、かつ丁寧にまるで壊れ物を触るように私は自身の両手でパウリーさんの手を触っていた。
手はやはり男の人だからか大きく、ごつごつしていた。
皮は厚めで全体的に少し茶色い。
手のあちこちに豆みたいなのが出来ており、押すととても固かった。
小傷なんかもよくよく見たら色んな所に出来ていて、治りかけのやもう治って跡になっているのもある。
どんどん観察していくうちに嘆息を漏らしていた。

ああ、やっぱり、

「綺麗だなぁ…」

思わず声に出してしまっていたが、そんな事も考えられないくらいその手に魅入っていた。
するりするり、と触っていく。
と突然、強めの風が辺りを散らした。
私は思わず目を瞑り、ゴミが入るのを防ぐ。
やがて風がやむと私もはっと我に返った。
触っていた手から勢いよく手を離すと、その場に立ち上がり今までしていた事を思い出してその場から逃げるように走り去った。


「(ーっ何をやっているんだ私はっ…!)」



「っくそ、綺麗ってなんだよ…!」

いつの間にか起きていたパウリーはナマエが走り去った後、ぼそりとその顔を真っ赤に染めながらそう呟いていた。



prev / next

[back]