この塊の名前はなんだろう?
「ミホークさん、ミホークさん、みほ……っ!」
別に用なんてたいしてなくて、でもこの胸にのしかかってる重くて黒い塊をどうにか欲しくて私は必死にミホークさんの名前を呼んだ
月に一回、来るか来ないかのいつものやつだ
「み、ほーくさ…みほーくさん…っ!!」
何回も何回も名前を呼ぶうちにぼろぼろと目からは涙が溢れた
別に泣きたいわけじゃないけどきっと心の奥底では泣きたいと感じているからだろう
ここ最近どうしても自分だけが取り残されていくような感じしかしなくて、とても苦しくて寂しい
彼は、いない
「みほーくさんっ…!」
この黒くて重い塊を、
「みほ、く、さ…」
とても重くて苦しい
ああ、辛い
「ナマエ…?」
扉を開ける音と共に、ミホークさんの声が聞こえた
私はすぐさま振り返りミホークさんの姿を視界に入れる
「みほーく、さ…」
驚きのあまり一瞬止まりかけた涙がミホークさんを視界に入れた瞬間またもや洪水のように溢れだした
ミホークさんは私を見た途端すべて悟ったのか帽子と刀を置くと両手を広げて一言告げる
「…来い」
「…っ!」
私はそのまま勢いよくその胸に飛び込んだ
その衝撃を分かっているのか、微動だにせずミホークさんは私を抱えあげそのまま何も言わず黙って私を抱きしめた
私はミホークさんの肩に強く頭を擦りつけた
「みほーくさんっ…!」
「…」
「みほー、く、さん…っ!」
「ああ…」
どうしてもとれそうにないこの黒くて重い塊を握りつぶすかのように、私はミホークさんの服をぎゅっ、と握る
どうせとれないのなら私ごと潰して欲しい
「み、ほーくさん、もっと強く抱きしめてください…っ」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をあげながらそんなお願いをする
余計なことを考えないくらいぎゅっと強く抱きしめて欲しかった
「…」
ミホークさんは何も言わずこちらを見て目を閉じると、腰に当てていた手を背中に持ってきてそのままぎゅっと強く抱きしめてくれた
でも私は全然足りなくて、もっと潰れちゃうんじゃないかってくらい抱きしめて欲しい
「もっと…もっと強くお願いします…っ!」
そんな我儘を聞いてくれるか、と心配になりながらも私は先ほどと同じようにミホークさんの肩に顔を埋め腕を首に回しぎゅっ、と強く抱きしめた
ミホークさんも分かってくれたのか、今度はもっと強くそれも潰れちゃうんじゃないかってくらい強く抱きしめてくれた
でもきっと優しいこの人のことだ、手加減はしているのだろう
「ふ…うぅ…うぇ……」
そのまま私は潰れるくらい強い抱擁の中、とれそうにない黒くて重い塊と共にずっとミホークさんの腕の中で泣き続けていた
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