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昼休みになった。
私はいつも外で食べるか、雨とか寒い日は適当に空き教室か休憩スペースで食べる。
今日は曇り空だったので中で食べることにした。
雄英には食堂の他に、小さめの休憩スペースがある。
ここが意外と穴場でほとんどの生徒は食堂か教室で食べる為、私はありがたくこの休憩スペースを使っていた。
轟君は体育祭が終わった後もたまに私とお昼を一緒に食べている。
ちゃんと断る時は断れる子なので単純に一緒にごはんを食べたいだけだと思われる。
うーんいい傾向である。

「あ、」

いつものように二人でご飯を食べていると、思い出したかのように轟君が声をあげた。

「どうしたの?」

「いや、今日までの提出物出すの忘れてた。」

珍しいなと思いつつも、お互いもうご飯は食べ終わりそうな所だったので今いけば間に合うと思う。

「もう食べ終わるし、出して来たら?
時間もあれだし、そのまま教室戻っちゃいなよ。」

「ああ…悪い、戻るな。」

「うん、またね。」

そんな会話をしてから数分、私はテーブルの上に携帯を見つける。
明らかにその携帯は轟君のもので、ないと困るかと私は片付けをしてA組に足を向けた。


A組に来るのは轟君の顔を確認して以来だった。
窓から少し顔を出してみるが、彼はいないようだ。

「入れ違ったかな…?」

それならクラスの誰かに預けるのが確かだろう。
誰かに声をかけるか。

「あれ、もしかして苗字さん…?」

誰かいないかと探していると、聞き覚えのある声に話しかけられる。
声のした方に顔を向けると、轟君にきっかけをくれた緑谷君だった。

「緑谷君。」

「あ、ご、ごめんいきなり!!誰か探して…あ!轟君?」

「うん、でもいないみたいだから…、」

「デクくーん!!…って、あれ…友達?」

緑谷君から渡してもらえば確実かなと思い携帯を渡そうとするが、第三者の声に遮られた。

「麗日さん、えーっと、彼女は…」

緑谷君は言いづらそうに近づいて来た女の子に説明しようとするが、友達と言われれば確かに微妙ではある。
とりあえず名前だけ言っておこう。

「こんにちは、1ーC組の苗字名前です。
轟君に会いに来たんだ。」

「えっ!轟君!?…ってああ!!
この間の!!」

なんか凄い驚かれてる上に声がでかい。
声の大きさにA組全員の視線がこちらに向いた。

「轟って…あ!!この間の!!」

「あー!!あの子!!」

待って何???
なんでこんなにざわつくの?
あの子って何!?
何もしてないよ!?

「お前無個性女!!この間はよくも無視したな!?」

わーカオス。
麗日と呼ばれた女の子の鶴の一声で、私の周りにはA組の人達が集まって来てしまった。
…なんだろう、今なら動物園の動物の気持ちがわかる気がする…。

「ねぇねぇ!私芦戸三奈!!轟とどういう関係なの!?」

「私は葉隠透だよ!私も凄い気になってたの!!」

「わ、私も気になってましたの!!あ、八百万百と申します!」

「蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで。」

「耳郎響香、ウチも興味ある。」

圧がすごい。
爆豪君が凄い勢いで近づいて来たかと思えば一気に女子に押し戻されてしまっている…。
A組女子強いな。

「苗字?」

どう対応しようか迷っていると、聴き慣れた声が聞こえた。

「轟君、」

「…、すげぇ集まってるな。」

私の現在の状況を見て轟君は冷静にそう言ったが、結構困ってるよ??

「…あはは…、」

「轟!!ちょっとこの子とどういう関係なの!?」

「こっちは気になって夜しか寝れなかったのに!!」

「そうだぞ轟!!
抜け駆けはゆるさねぇ!!」

「そーだそーだ!!」

ヤジが凄い上になんか更に人が増えた。
とりあえず携帯返そ…

「携帯忘れてたから届けに来たんだ、はい。」

「あ、…悪りぃ、助かる。」

本来の目的はとりあえず果たしたが、これどうしよう…。

「…何があったんだ?」

この動物園状態に、説明を求められた。
こっちが聞きたいよ…。

「轟!その子との関係は!?」

一際大きく声を出したピンクの女の子(もう誰だか分かんない)に周りも少しだけ静かになる。

「?苗字は友達だ。」

「嘘!!!」

「嘘じゃねぇ。」

だよなと確認を取るように私の顔をみる。

「うん、友達だよ。」

「えー!!じゃあじゃあ風の噂で無個性って聞いたけどなんで雄英に入ったの!?」

ぐいぐい来るなー。
女子高校生の圧力怖い…おばあちゃんには刺激が強いかな。

「えっと、記念受験だと思って…」

「俺が誘った。」

一瞬の間。
後に悲鳴と驚愕の声。
あー…ややこしくしてしまった…。
轟君今ちょっとだけお口チャックして欲しいな??

「待って誘ったってどういう事!?」

「やっぱりそういう関係!?」

「轟君が…誘っえっ!?」

「轟お前もやるなぁ!!」

だめだ、これは多分話を聞かない。
げんなりしながら私は流れに身を任せる事にした。

「…苗字、大分疲れた顔してるが大丈夫か?」

「うーん半分は轟君のせいかな。」

「!?…悪い、」

「謝られると痛いなぁ…、」

そんな会話をしながらぼんやりと目の前にいるほぼA組全員を見ていた。
が、ここでチャイムという救いが鳴った。

「授業始まるから行くね。」

「ああ。」

「えー!行っちゃうの!?」

「まだ色々聞きたいのにー!!」

「…轟君またね。」

これ幸い、と思いながらそそくさとA組を去った。
はぁー…凄い疲れた。