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4.声

「こうも避けられると、流石のおじさんでも傷つくんだよねぇー。」

「ひ、ひぇ…、」

ナマエ、只今絶賛ピンチです…!!
春雨の副団長である阿伏兎さんから乙女なら誰もが憧れる壁ドンをされています…!
なんでこうなった!と声を大にして言いたいところですが、心当たりがありすぎて弁解ができません。
それにこれには海よりも深い訳があります!

ここは春雨第七師団の船の中。
夜兎族で構成された最強の師団です。
あ、申し遅れました私、ナマエと申します。
実は人間と夜兎のハーフで、戦闘はからっきしの小娘です。
父は夜兎族であり傘を作る職人でした。
そんな父を幼い頃から手伝っていた私はその腕を見込まれこの師団に所属しています。
母は人間で、地球に来ていた父と恋に落ち私を産みました。
その後母は病気で他界し、父も後を追うように亡くなり途方に暮れていた私をここの団長さんが拾ってくださいました。
最初は怖くて死ぬかと思ったんですが、殺す価値もないようで普通に接して下さいます。

船に慣れるまで時間はかかりましたが、皆さん気さくに話しかけてくれるので馴染むのは案外早かったように思います。
しかし…しかしなんですよ…唯一馴染めない…と言うか私が悪いんですけど、副団長である阿伏兎さんだけは…阿伏兎さんだけは…駄目なんです…!
いえ怖いとかそう言うことではないのです!
寧ろこんな私の事を気にかけてくださったり、話しかけてくださるのですが!!
………あの声を聞くとどうも逃げ出したくなると言うか、腰が砕けると言うか…
自分でも変なこと言っているのは分かってます…!!
でもこれだけは駄目なんです!!
初めて声を聞いた時はもうなんと言うか…体に衝撃が走って腰が抜けました…
あの声は駄目なんです!!魅惑すぎます!!
そのせいか自然と阿伏兎さんを避ける形になってしまい、今に至ります…。

「で?なんで俺だけ避ける?俺なんかしたか?」

「(ひいい!!)」

自業自得なんですけど!!自業自得なんですど!!(大事なことなので二回言いました)
これ完璧に逃げられないですよね!?
しかも避けてるのバレてましたし!
ひぇ!近い!!近いです!!

「心当たりが全くないから余計に傷ついちゃうんだよねー、おじさんは意外と繊細だから。」

「…っ!!(だ、誰か助けてー!!)」

もう近すぎて顔も直視できないです!!
無理ですこれは!!

「おーい、ナマエ聞いてる?」

なんで更に顔を近づけてくるんですか!!
ひぇぇ!
も、もう駄目腰が…!

「おっ、と……ナマエ?どうした急に…体調でも悪いのか?」

腰が抜けた私は壁をずるずると伝い座り込んでしまいました。
それに変だと気がついたのか阿伏兎さんもしゃがみこみ顔を覗いてきます。
その声は心配そうに喋るので、私もついに爆発してしまいました。

「ナマエ…?もがっ!」

「も、あぶとさんおねがいだからしゃべんないでください…!!」

最終手段です!
私はこれ以上阿伏兎さんを喋らせないように口を両手で塞ぎにかかりました。
これで一先ずは安心です!
めちゃくちゃに恥ずかしい事をしている自覚はありますが、もうなりふり構って要られません!!
こうやって聞き出してるなんて思いもしなかったんですから!!

「!!」

ひぇぇぇ!
凄い驚いているのがよく分かります…!
でもごめんなさい!!こうでもしないと上手く喋れなくなっちゃうんで!!

「さ、避けてたのには理由がありまして…あ、別に阿伏兎さんが嫌いとかではないんです!!寧ろ気にかけて頂いて感謝しています!」

は、恥ずか死ぬとはこの事か…!
絶対顔赤いですよこれ!!
なんだか緊張して目も見れない!!

「で、ですが…あの…その…、」

は、早く言うんだ私!
もう穴があったら入りたい!!
入ってしばらく出たくない!!

「あ、阿伏兎さんの声を聞くとぞわぞわすると言うか…腰が抜けるというか…と、とにかく!駄目なんですよその声は!」

言ってしまった!!
に、逃げよう!!
逃げるが勝ちだ!!
ええい私の腰よ動け!これでも半分夜兎の血が混じってるんだ!!

この間約0,5秒。
阿伏兎さんがどんな顔をしてるか見もしないで、口を塞いでいた手をぱっと離すと脱皮のごとく逃げ出した。

…筈だった。

「ほぉ…なるほど、そういう事か。」

捕まっている!!
なんで!?
くっ!これもハーフと純血の差ですか!
メーデーメーデー!!

「ひぇ…!!」

逃げ出す筈が壁に逆戻りしている。
壁さん再びこんにちは☆…じゃないです!!

「ったく、柄にもなく色々考えてたのによ…、」

「あの、阿伏兎さ…、」

放して下さい切実に!!

「んで?…俺の声が何だって…?」

「ーーひっ!!」

み、耳はあかんです!!
も、もう誰でもいいから助けてくださーーーーーい!!!!