嗚呼、もう、全部言ってしまおう 言って楽になってしまおう この切ない胸の痛みも、苦しみも、どうしようもないくらい、貴方が好きだと、声を大にして言ってしまおう 張り裂けるような想いを、全部全部口に出してしまおう
僕は(私は)、溢れ出る涙を拭うと印を結んだ ぼんっという白い煙と共に、僕は私に変化する
「!お前は…っ!」
「二回目だね、奈良シカマルさん」
だんだんと晴れていく煙の向こうで、シカマルの顔が驚いている 私はあの時と同じように、にっと笑ったつもりだったがきっとうまくは笑えていないだろう
「お前は、あの時の…」
珍しく狼狽えるシカマルに、私は(僕は)苦笑いをした
「大丈夫、ちゃんと説明するから」
「…あれは、夢じゃなかったのか…」
「夢、かぁ…そうだったらよかったのにね、」
「…話せ、」
そう言って見てくるシカマルの目は早く、と急かしているようにも見えた
「…そうだね、まずは私の説明からかな」
「私…?」
「…今から言う事は、信じても信じなくてもいい でも今から話す事が、貴方を避けていた理由」
「…?」
全く持って意味が分からない、という顔をするシカマルに私は深呼吸を一つすると、覚悟を決めた
「私は元々この世界の人間ではないの」
そう一言話し始めた私は、そこからぽつりぽつりと説明を始めた
「私の世界には、この世界の物語が描かれている書物があるの 物語の題名はNARUTO、…そう、主人公はナルトだった その中にでてくる様々な登場人物や忍びとは何かという疑問、全てが私を魅了したの 大好きだった 落ちこぼれと呼ばれていても諦めない強さを持つナルトや、復讐に取り憑かれつつもちゃんと仲間とは何かを知っているサスケ、誰か一人を愛し続けるという忍耐と覚悟を持つサクラ… じじ臭い趣味をしていて、性格ものんびり、めっちゃ頭いいくせに授業中は寝ていてナルト達とふざけることも多々ある …でも、めんどくさいと言いつつも、ナルトを化け物扱いせず、ナルト自身をちゃんと見ていてなんだかんだ言って手助けしちゃう奈良シカマル… そんな世界に、そんな貴方に憧れを抱いていた その強さも、忍耐も、優しさも全部に触れてみたかったの 絶対無理だと分かったいたけど、憧れていた …そんな時だった 神と名乗る人物が私をその世界に連れて行くと言い出した ありえないと、嘘だと思ったけれど気がついたらここにいた 嬉しくなった私は一目でいいから、少しでいいから貴方に会いたいと探した …見つけたのは、貴方の息子だったけどね そこからは貴方も知っている通り ここから飛び降りた私は、一目会えたからいいかと自分自身を納得させた でも、消えて行く中、元の世界に戻るんだと思っていた私は再び目を開けた途端絶望した …そして、全部を知ってしまった 元の世界にいた『私』、という体はこの世界に耐えられない だから新しいこの世界の『私』という体に入れられたの それが、僕だよ」
私は変化を解き、僕の方に戻った シカマルはあり得ないというような、信じがたいような顔をしている
「なんで神が私の方を元の世界に戻さなかったのかは分からない 神のみぞ知る、って言うやつだ」
「…じゃあ、女の方のお前は男の方に憑依したってことか?」
難しそうな顔をしながらも、先ほどの話を聞き、信じるかは置いといて噛み砕いて理解するシカマルを流石だなと思った
「…少しだけ意味が違うな、…パラレルワールド、という言葉を知ってるか?」
「…何となくな」
「この世界には無数の世界が存在していてそれはもし、という世界 もしあの時こうしていたら、その選択を選んでいたら、という世界のことをパラレルワールドと呼ぶんだ …僕も、女の方も、もしという世界が重なり合わさってしまった世界 つまり女の方も、男の方の僕もどちらも同じ存在なんだよ」
「…なるほどな、もしお前が女で産まれてきた世界と、男で産まれてきた世界が重なって一人になったってことか」
「…本当に、流石としか言いようがないね、 そう、女の方が僕に入った時に僕は女の記憶を、女の方は僕の記憶を共有したってとこかな」
僕は淡々と説明をしていった でもやっぱり少しだけ怖い 全部を知ってしまったら貴方はどんな顔をするのか、考えただけでも怖くて逃げ出したくなる
「…大体は理解した、でもそれだと俺だけを避ける理由にはならなくないか?」
貴方を避ける理由 人生最初で最後の告白を、 僕はその一言を絞り出す為に息を吸い込んだ
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