ペンギンさんとミーハー女


「どうしてペンギンが女の子なのよ!!!」

怒りの籠った目で睨まれてる私は、その言葉の意味が分かってしまった

「ありえない!ペンギンを返して!!」

…ああ、そうだ…私の、名前はーー…、


数時間前

「…んんん?なんか食堂が騒がしいなぁ…」

ただ今のお時間、15時過ぎくらいを指している
この時間は大体みんな休憩しておやつを食べたりしているクルーが大半だ
しかし何故か今日は少し違っていた
食堂から聞こえてくる声は鋭いものが多く、気配もピンと張りつめいてる

「シャチ辺りが何かしたかなぁ…」

とにかく様子を見てこよう

がちゃっ、と食堂のドアを開けた私は何故かクルーの視線を一斉に受けていた

「ペンギン!」

「…何の騒ぎだ…?」

これはただ事じゃないな、と察した私は頭をペンギンに切り替える
しかし、食堂を見渡した私は全て分かってしまった
食堂の丁度真ん中、クルーが周りを囲うように中心にいる女の子、その向かいにいる船長

「ああ…」

いらっしゃい、日本の方




この状況を誰もが理解できないと思う
…私以外は

「ペンギンか、」

ぽつり、と船長が私の名前を呼ぶ
私は、一体どうすればいい?

「船長、これは…」

「休憩中にこいつがいきなり上から落ちてきた…が、こいつは能力者じゃないらしい」

ガチャリ、と鬼哭で真ん中にいる女の子を指した

「っ!」

「この様子を見ると、ただの一般人らしいな」

船長は楽しそうに口角を上げて笑っているが、女の子は肩を震わせ目には涙が溜まっていた

「どうします?」

シャチが船長に目配せをする

「…海にでも捨てておけ」

「…っそんな!ち、違います!私本当に能力者とかじゃ…っ!」

「…だそうですけど?」

「こんな何者かもわからねェ奴早いとこ処分した方が身の為だ」

そう言った船長は興味がなくなったのか、立ち上がるとこちらに向かって歩いてきた

「や、やだ…誰か…」

絶望に染まった女の子の顔がここからでもよく見える
あれは、きっと私だ
ペンギンという立ち位置に生まれてこなければ、私もああなっていたかもしれない
ここはきっとベポかシャチ辺りの出番なんだけど、ペンギンが助ける世界があっても面白いのではないのだろうか?
ふとそんなことを考えている自分に笑いがこみ上げてくる

「(どんだけ夢のことばっかり考えてるんだ私は…)」

頭がキレて、皆のオカンで、クルーからの信頼も厚くて、この船のことを何よりも一番に考えるペンギンが、助ける世界があってもいいのではないだろうか?
寧ろ、貴重な出来事かもしれない

「待ってください」

今まで見ていただけの私が声を上げると、しんっと静寂が訪れた
私は又もや食堂にいるクルー含め、船長と女の子の視線をも受けていた

「殺すには少々、もったいないですよ、船長」

あの無口で頭のいいペンギンの、世にも珍しい助けるお話
私も読みたかったなぁ…


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