悪戯にわらうよこがおの矛盾



桜色の綺麗な髪。線が細いのにかなり筋肉質な腕。練習に明け暮れた証拠の固くなった豆。
見当たるところ全ての亮介の好きなところを挙げればキリがない。
雑誌を読んでいる亮介をまじまじと見つめれば、雑誌から視線を上げた亮介の口から問題発言が起きた。

「なに?お前キスしたいの?」

「は!?」

つい声を荒げれば亮介が雑誌をぱたりと閉じる。
何を言っているんだと思いながら亮介を凝視すれば、亮介はクスリと笑ってまたも爆弾を落とす。

「だってそう顔に書いてあるし」

「いやいやいやいやいやいや書いてない書いてないよ、思ってもない!」

ぶんぶんと首を振って否定すれば、「なんだっけ、あの、赤い牛の人形みたい」との一言。誰が赤べこ人形だ。

久々のオフで自主練を早めに切り上げてきた亮介の元へ嬉しさいっぱいでここに来たのだけれど、まさかこんな爆弾を投下されるとは思ってもいなかった。ちょくちょくそうやってわたしをからかう彼だけど未だに慣れない。
顔を熱くさせると彼はまた面白そうに笑って「ふうん」と呟き、雑誌にまた視線を戻す。

そしてまたわたしはぼーっとしながら亮介の様子をなんとなく眺める。

しばらくそのページを捲り目を落とす様子を眺めていると、あれ。あれ?
あれ、なんか、寂しい?

もやっとして気持ちを抱えながら、まじまじと亮介を見つめる。あ、きっとあれだ。目を逸らしていた事実にそっと触れる。か…構ってほしい。これに尽きるのだけど……

「あはは、宮ちゃん凄い顔してる。」

楽しそうに雑誌を捲る亮介に言えるわけないでしょうが!
わかりますわかります、それわたしも穴が空きそうなくらい読んだもの。
ローカルな雑誌に青道が特集されるというから地元の本屋さんで朝いちばんに買いましたとも。

亮介が写っている写真を探しては、わたしと違う世界で頑張っているのだと見えない相手に思いを馳せるのは随分と慣れた。
ついたまに距離を感じてしまうことがあって、そういう時はただ、寂しいとか会いたい、という気持ちをひたすら隠して自分を偽る。それがわたしにとっても彼にとってもきっとそれぞれの為になるのだと思うから、どんどんと表面上の気持ちで上塗りする。ただ、彼のことが好き。それだけでいいんだ。
そう思っていたらいつしか、素直になることすら難しくなっていた、なんて。ほんとうにまったく。我ながら面倒くさい。

悶々とした気持ちで顔をうつむかせていたら、急に亮介が「名前」と呟く。

その声に反応し顔を上げれば、亮介が身を乗り出して、わたしの唇に軽くキスを落とした。

「!?」
「……足りない?」

吃驚して目を見開くわたしに、再び唇を重ねる亮介。
動けないでいるわたしを見て一瞬クス、とわらったかと思うと、急に力強い腕で引き寄せられ、何度も唇を合わされる。ドサリと雑誌が落ちる音がしたものの気にしない。
ついばむようだったり、亮介の舌がわたしの唇を舐めたり、首の角度を変えながら何度もキスをする。
恥ずかしさとか嬉しさとかいろんな気持ちになりながらだんだんと身を委ねていると、最後に軽く ちゅ、と唇にキスを落とされて亮介の顔が離れる。

「はい、これで満足?」

楽しそうに笑う亮介に見惚れると、それを感じ取ったかのようにまたわらわれる。
ほんとう、何でもお見通しだ。
緩み切ってとろけた気持ちで思いを伝えようと亮介の服を掴めば、きゅっとその手を握り返された。温かい。

「あ…あともう一回」
「我儘。」
「えっ」
「可愛い。」

また軽く、今度は額にキスを落とされる。
思わず「あっ」と声を上げれば、亮介の口角がさらにあがった。

「その顔そそるね」
「り、亮介、」
「名前が好き」

額、目尻、耳、首、頬と少しずつキスを落とされていく。
まるで亮介がわたしを溶かすようにキスを落とすものだから、心に抱えていたわだかまりがゆっくりと解けていくのを感じた。

「わ…わたしも好き」
「やけに素直だね。」
「うん……もう、わたし。亮介が好きすぎてよく分かんなくなってきた。」

そう漏らして亮介の胸に身体を委ねれば、亮介が身じろぎするのが伝わる。

「ねえ」
「うん?」
「……狙ってやってるの?」

顔を上げて亮介を見つめれば、一瞬亮介の焦った表情が見えた気がしたものの、すぐにいつものように笑みをたたえる。

「な筈ない、か。名前だし。」
「え?」
「遠慮とかいいから。…折角素直なんだし、存分に甘えなよ。」

首を傾げていれば、亮介がわたしの頬に触れる。クスクスと笑う亮介が、かっこ良くて「亮介が好き」と伝えれば、亮介がわたしの前髪を撫で付ける。

「仕方ないなあ。可愛い名前に免じて、これからお前が寂しくならないように、もっとよく分からなくなるくらいに愛してあげるよ。」

わたしの頭を大きな両手で支えて、楽しそうに目を細めて、ゆっくりとキスを落とした。




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