後ろの正面だあれ「ふぁあ…って、七海? 何してるんだい?」
「何って、お菓子作りだよ!」
「お菓子…?」
正ちゃんが欠伸混じりに、不思議そうに首を傾げるのには理由がある。
それは、私が朝早くから正ちゃんの部屋に上がり込んで台所に立っていることと(これはもう慣れてる筈)、
私が最も苦手とするお菓子作りを、気分上々でしていること。
きょとんとして私の手にあるボウルを見つめる。
「え、急にどうしたの?」
「正ちゃんいつも頑張ってるから、そのお礼!
上手に作って食べてもらいたくって」
「七海…」
感動して目を潤ませる正ちゃんにニコッと笑いかけて、ボウルと泡立て器を手渡す。
「え?」と声を漏らしてぽかーんとする正ちゃん。可愛いなぁ。
「だから、手伝ってくれる?」
「えええ?」
更に疑問符を浮かべる正ちゃんは「それ何か違うんじゃ…」と言っていたけど無視です。ごめんね、正ちゃん。
***
「正ちゃーん、もう焼きあがるよー。クリームもういい?」
「あ、ちょっと待って」
ガシガシとボウルを混ぜる正ちゃん。
何だかんだ言って文句も言わず真面目にやってくれる正ちゃん超優しい。
押し付ける私超最低。
それでも、こうやって二人で居られる時間が大好きだから、いっぱい甘えちゃうんだけど。
「一口食べちゃおー」
「あ、こらっ」
「うわー美味しー。止まんないね!」
「ちょっ、七海、ダメだろそんな食べたら」
指でクリームをすくって口にどんどん運ぶ。
ボウルを遠ざけられ、「えー」と声を漏らせば「えーじゃない」と返された。
「全く…ほら、口の周り汚れてるよ」
「むぅ」
「仕方ないなぁ」
少しかがんで、親指の腹で私の口の周りを拭う。
なんというか、あれだなぁ。正ちゃんたらお母さんみたい。
なーんて言ったらまた怒られちゃうのかな。
「正ちゃん正ちゃん」
「ん?」
「とりゃっ!」
「っちょ…七海!?」
「あはは、正ちゃん可愛いなぁ」
悪戯心で正ちゃんの口に生クリームを押し付ける。
ニコッと笑顔を浮かべて首を傾げれば、困り顔でクリームを口に入れた。
「どう?おいし?」
「美味しいけど…」
だよね、と言ってクリームを袋に入れようとしていると、正ちゃんの溜め息が聞こえてきた。
「ほんと…僕の気も知らないで」
流石にやりすぎちゃったかな、と反省していると、急に手首を掴まれる。
「!?」
「…これ、七海がとってよ…」
両手首を掴まれ、壁に追い詰められる。
正ちゃんの口の周りにはさっき私が付けたクリーム。
何か、スイッチ入れちゃった…!?
正ちゃん、怒らせちゃった。
あわあわとしていると、どんどん顔が近付いてくる。
「ほら、七海…」
恥ずかしくてつい、顔を逸らした。
「しょ、正ちゃん…っ!」
正ちゃんはハッとして手を離す。
「!っご、ごめん」
「わ…私も、意地悪してごめんね」
正ちゃんは自分で拭う。
…なんか、いつもの正ちゃんじゃない?
思い出すだけで顔が火照る。
「…さ、作ろうか」
「うん」
多少気まずさを残し、作業に戻ることに。
………。
まだ、ドキドキと私の中で激しく脈を打つ。
鼓動が煩い。
スポンジを取り出す正ちゃんの隣に並んで台所に立つ。
生クリームを搾る準備をしていると、手が震えた。
「ドキドキさせないでよ、ばか…」
正ちゃんが息を呑む。
また溜め息を吐いて、ぼそっと呟いた。
「こっちの台詞だろ」
私に手を伸ばし、一度まごついて戸惑う。
そして、何かを決めたように手首を掴み、優しく引き寄せた。
後ろからぎゅっと腕の中に閉じ込められる。
「…好きだよ、七海」
…いつも、そんなこと言わないくせに。
耳に当たる吐息が熱い。
多分私は今真っ赤になっていて、きっとそれは正ちゃんも。
直接伝わってくる心拍数とか、息遣いが愛しい。
正ちゃん、今、どんな顔をしているの?
どうしても愛が降り積もって、堪らない。
好きだよ。振り向いたらすぐに伝えよう。大好き。大好きだよ、正ちゃん。
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正ちゃんの口調が定まらないのですが、大丈夫でしょうか( ̄□ ̄;)
ひとつひとつの行動に翻弄されっぱなし→反撃→やっぱ正ちゃんは正ちゃん、な流れが大好きです!
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