ほぼ無意識に


深夜の森は一層冷える。夜風が身を凍りつかせた。


「うえっくしょいっ!」


ずるずると鼻水をすすって顔をしかめる。
…はぁ、寒くなってきたなぁ。身震いをして赤くなった手をコートのポケットに突っ込んだ。

「色気も可愛げもないくしゃみですねー」

「あんた相手に色気も可愛げも必要ないもん」

後輩のフランを一蹴して、手元にある紙に目を通す。今日の仕事の情報だ。
内容はミュングリッドファミリーの壊滅。今回は小規模なファミリーなので、そうは時間がかからないだろうとたかを括った。

まぁ、今回もいつも通り。
さくっと片付けようか。






「別に興味津々ってわけじゃないですけどー、寂しそうにこちらを見てるから敢えて聞きますねー」

任務は無事に終わった。
いつもより調子も良くて、時間もあまり掛からずに終わった。

…1つだけ、問題を残して。


「七海先輩は馬鹿なんですかー?」

「うっ…。うるさい!…両足捻るなんて、よくあることでしょっ!」

「ミー初めて見ましたけどねー」


小さく体操座りをして膝に顔を埋める。
足首がズキズキとして痛い。

あぁ…本当馬鹿だ私。油断した。自分で転んで負傷だなんて、医療費出るのかな。



「フラン、先に帰ってて」


私は後から帰るから、と告げて両足をぎゅっと抱き締める。暫く休んだら、スクアーロ先輩にでも車出して貰おうかな。


フランは何も言わず、変わりに足音が聞こえてきて、


「うわっ!!?」

急に腕を引っ張られた。吃驚して思わず目を見開く。


「面倒臭いですけどー…
七海先輩が遅れると報告書も遅れるんでー」


力強く体を持ち上げられて、すっぽりとフランの背中に収まる。


「先輩は重いですねー」

「ちょ…っ、いいよ降ろして!」

ばたばたと暴れようとすると足に痛みが走る。フランに体重把握されるなんて嫌だ!


「嘘ですよー。別に普通ですー。軽くもないけど」

「降ろせぇぇえ!!」

こうなったら無理矢理降りようと試みるも、がっちりと太股を固定されていて動くことが出来ない。

「動けないんでしょー?大人しくミーに運ばれて下さーい」

淡々と言い放つ後輩に、ついに折れて身を預ける。


「狡猾な後輩」

「頑固な先輩ですねー」


風を切って、木を跳んで渡る。
振動が来ないようにしてくれているのか、ゆっくりとした移動だった。



ふと気が付いた。

「フランって香水付けてる?」

「?付けてませんよー」
「ふーん。これがフランの匂いなんだ」


細くて折れてしまいそうな背中に顔を埋めて鼻を利かせる。
急に何を言っている、とでも言いたげに肩をびくりと動かした。

優しくて柔らかくて、いい匂い。
もっとそれを感じたくなって、ぎゅうっと抱き締めるように力を込めた。


「…もし、ミーが着てるこの隊服がレヴィ先輩のお古って言ったらどうしますー?」

「えっ、嘘!?…降ろして!一刻もはやくっ!」

変態のお古!?考えただけでも吐き気がする。さっきまでの自分の行動を思い出して、変な汗が額に浮かんだ。


「嘘ですー。ミーだってあの変態雷オヤジの隊服なんて着たくないですからー」

「なんだ、脅かさないでよ」

ほっと一息吐いて、再び身を預けた。





「降ろすのは、七海先輩の部屋で良いんですよねー?」

「うん、開いてるから入ってー」

10分程度走って、ようやくアジトに辿り着いた。


「っくしゅん!この部屋さむー…暖房つけよう暖房」

自室のソファに降ろしてくれる。手つきが丁寧で、足に響かないようにそっと降ろしてくれた。
暖房の風が出る音だけが部屋に響く。

心なしか機嫌がよさそうに見えるが、彼の事だ。気のせいだと思う。


「…なんだかんだ言ってさ、今日は送ってくれてありがとね」

「いいえー。報告書が遅れると、ミーがボスに殴られるんでー。

…じゃ、ミーは帰りますー」

お礼をあっさりと流して、背を向ける。出入口に向かって歩き出した。



「あ、そうだ」


何かに気が付いたように、私の方に振り返る。人差し指を天井に立てて言葉を発した。
え、何だろう。フランの事だからお礼として報酬の7割よこせやとかだったりして。困るなぁ。この前ベル先輩に巻き上げられたばっかなんだよな。

勝手な妄想世界を広げた私を現実に呼び戻すかのように、怪しげな笑みを浮かべて言い放った。



「今のは、色気とか可愛いげとか意識してくれた くしゃみでしたよねー?」



ミーにもまだ希望はありますねー。諦めませんからー。


「!!!」

「お休みなさーい」

挨拶に続いて、パタン、と静かに戸が閉まる。


あやつなかなか侮れない、と格好付けて呟いてみるも、説得力がない。
はぁ。溜め息吐くのこれで何回目だろうな、だとかお腹空いた明日の朝食は何だろう、だとか ぐるぐると色んなことを考えていた。



畜生。やられた。


「無意識だったっつーの」


温もりのない小さなクッションに顔を埋める。…固い。
覚えのあるあの優しい匂いをまた感じたくなった。



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初めて投稿して結局お蔵入りになったのを見つけたので、改めてアップしてみました(^q^)
書き方がちょっと違う…のか、な!?


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