太陽のなきがらお互い仕事が一段落ついたところで、現在進行形で恋人である正ちゃんと会うことになった。
私は今、正ちゃんとアジトの屋上にいる。
お互いに仕事終わりということで、白と黒とで違う服装に身を包んでいるから、そういえば正ちゃんはホワイトスペルだったな、と再確認。
会って顔を合わせるも、正ちゃんからの言葉はなく、ただ手を上げ笑うだけだった。
どこか安心したように顔を弛ませて、息をついた。
私も同じように手を上げる。
「久しぶり」
「最近忙しかったからね」
それだけ交わしてどこか良い場所を見つけて座り込んだ。
何となく、何となくだけど、背中合わせに座ってみる。
「どうしたの?」
不思議そうに振り返る正ちゃんに「気分だったの」と正直に伝えると「そう。」と言って向き直った。
思いきりもたれ掛かれば、「重いよ七海」と言って面白そうに笑う。
女の子に重いはダメだよ、正ちゃん。
ゆっくりと太陽が沈むのを眺める。
夕暮れが綺麗だ。赤く燃え、引き込まれそうになる。
反対側では今、どんな景色が広がっているのだろう。
薄く月が昇り始める頃だろうか。
ただ静かに沈み行く太陽を見つめながら、背中に正ちゃんの温もりを感じる。
正ちゃんの温もりが愛しい。この静けさでさえも心愛しく感じるのは、正ちゃんが居るからだろう。
突然、正ちゃんが口を開いた。
「月が綺麗ですね」
「え?」
「…空が綺麗。」
ああ。確かに、綺麗だ。
見ている景色は違えど、同じ大空に変わりはなく、ただただ美しい。
ぼーっと太陽が消えるのを見つめていると、だんだん橙から青に染まっていく景色。
陽が落ちた。
脱力感からか、今日の夕飯は何を食べようだとか洗濯洗剤もうすぐ切れそうだとか、どうでもいいことばかりが頭を占める。
もたれ掛かって正ちゃんに体を委ねていたら、正ちゃんがいきなり体を退けて寝転がった。
そのせいで私も体制を崩してしまった。
「うわわっ」
「わっ、ご、ごめん。七海も寝転って、一緒に見よう」
「ん、そうする」
素直に返事をして正ちゃんの隣に寝転がる。
コンクリートが少し冷たい。
「七海。」
「ん?」
「月が綺麗ですね」
「そうだね。…何でさっきから敬語なの?」
それを聞くとピクリと身動ぎをする。
そして何気ない顔で口を開いた。
「“月が綺麗ですね”って昔、I love you.を訳すときに、夏目漱石が言った言葉なんだって。」
「え。」
「好きだよ、七海」
照れくさそうに笑いながら私の方を向く。
優しげな視線と目が合って、思わず目を逸らしてしまった。
「好きすぎて、ごめん」
「…こちらこそ」
手を握り合って、空を見上げる。
いつの間にか星が溢れ、零れるくらいの光が私たちを包む。
太陽が燃え、月が魅せる。
色んな表情を見せる空が、私は好きだ。
そしてその景色を真っ直ぐと捉えて離さない正ちゃんの瞳だとか、私に向けるその優しい笑顔だとか、正ちゃんの全てがもっと好きだ。
ああ。今日も今日とて、月が綺麗。
昔も今もこの気持ちは変わらずここにある。
****
タイトルお借りしました!
joy 様
prev|next