スコールを産む日


どれだけ人から天才だとか言われても、所詮こんなものは世界に不必要なもので、ただの人殺しに過ぎない。皮肉なものだ。そう思いながら、毎日のように引き金を引いて、生臭い匂いに身を包む。
だから、こんな生活をしている私は女としての幸せを掴める気がしなかったし、寧ろ、掴んではいけない気がした。


「あの、七海。」
「ん?」
「無理してませんか?」
「してないよ。バジル」

一通り仕事をこなした私が本部へと戻り、報告を済ませ、私室で寛ぐ。
バジルの淹れてくれたカモミールティーを飲みながら、一息吐いた。
……ふぅ、疲れた。

最近は昼夜関係なく汚れた仕事を一手に引き受けているため、心身ともに疲労困憊しているのだが、デスクワークだったり海外に飛び回ったりとして誰より多忙であるバジルには心配は掛けたくなかった。何事もないいつも通りの笑顔を向ける。

するとバジルは小さく溜め息を吐いて、

「……嘘ですね?」
「え。」
「拙者には分かります。何年の付き合いだと思っているんですか」
「えっと、な、何が?」
「だから、」


「また拙者には心配掛けまいだとか考えてるんでしょう。」

ぶにゅー、と両頬を引き伸ばされる。
ず、図星だ。図星過ぎて怖いくらい。
何この子、読心術の天才?

「…らっへ、」
「だってじゃないでしょう!」
「うぅ。」
「自分の体なんです、大事にしてください!」
「ひゃい…」

パッと離された頬。
バジルは厳しい表情を弛め、眉を垂らす。
あ。困り顔可愛い。なんて思ってしまう私も大分疲れてるみたい。
バジルの怒った顔より、こっちの方が落ち着く。

「最近裏の仕事が多いのは知っていました。しかし、働きすぎでは?」
「バジルには言われたくないよ…」
「拙者はまだまだこれからです」
「流石だなあ、」
「七海もですよ。」

はふー、と溜め息を吐いてカモミールティーを一口。癒される。
バジルはそんな私を見て「お疲れ様です」と言って微笑んだ。
ああ。落ち着く。
細く目を瞑れば、頭の上に何か温かいものが乗った。
「ん、」と声を漏らして見上げればバジルの姿。
慈悲深げ、って言うと大袈裟かもしれないけれど。優しく微笑みながら、頭を前髪に沿って撫でてくれる。
…そうだ、幼い頃よくこうやって頭を撫でてくれていた。
懐かしいのと照れくさいので、笑みが漏れる。

「もう私子供じゃないよ?」
「はい。そうですね」
「お互い、変わったね。」
「そうですか?」
「そうだよ」
「七海は綺麗になりましたね」
「そんなこと。…手は、いっぱい汚れちゃった」
「………」

バジルの目が微かに見開かれる。
少ししてから、小さく笑みを浮かべた。

「七海が頑張ってる証拠ですね」
「人の命を奪っていると言うのに?」
「…七海は、」
「ん?」
「七海は、CEDEFを辞めたいですか?」
「!」

そんなこと、考えたこともなかった。
身寄りのなかった私に手を差し伸べて下さった親方様に恩義を報いるため、一生着いていこう。そう、決めていた。
きっとそれはこれからも変わらないことなのだろう。

私が暫く黙り込んでいると、バジルは静かに口を開く。

「確かに、人の命を奪うということは誇れたことではありませんよね。」
「………」
「それでも、拙者は、親方様の為になることをしたいです。」
「………」
「拙者は親方様の部下であることに誇りを持っていたいです。親方様の部下として、恥のないように。
人の命を奪うことに慣れてはいけないし、そしてそれに誇りを掛けているわけではないです。それは、絶対に。」

「バジ、ル」
「七海。無理はしないで。

自分が幸せを掴んではいけない、なんて思わないで下さい…
七海は、幸せになっていいんですよ。これは、誰かの為に頑張ってきた人の手です。」

バジルにそっと握られた手を握り返せば、バジルの温かさが肌に伝わる。
ぽろぽろと目から水滴が出てきて止まらない。なに、これ。
バジルはそんな私を見て、微笑みながら私の頭を撫でる。

「もう、子供じゃ、ないよ」
「はい。そうですね」

ぽろぽろ、ぽろぽろ。
目から頬へ、顎へと伝い、流れ落ちていく。

「七海、」
「うん?」
「拙者は、七海が好きです。」
「へ…」

そんなの、私もに決まってる。
しかし、そう伝えれば「そうじゃないんです」と言われた。

「勿論、幼馴染み、仕事仲間としても。
そして、一人の女性として。七海が好きです。」
「ば、バジル?」

「拙者はこれからもずっと、今より近い場所で七海を守りたい。幸せにしたいんです」
「……」
「拙者じゃ、ダメですか?」

ぎゅうっと握り締められた手に微かな湿る感覚。
バジルは優しすぎるから、私はまたバジルに甘えてしまう。
笑みが溢れて、ああ。私は幸せ者なんだな、って感じた。
幸せでいても良いと言ってくれたバジルに。

「…、ご迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします。」
「!こちらこそ。」

照れくさそうなバジルの頭を軽く撫でてやれば、眉を垂らして楽しそうに笑った。


スコールを産む日

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殿が消える幼馴染バジルさんprpr!! 可愛いよはすはす!
似たような話ばかり書いていr…え、いや、なんでもないです。
(゚Д゚≡゚Д゚)


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