38度5分の幸せ


「38度5分」

恋人のフランに告げられた言葉は、私の思考を一気に停止してまうものだった。
小さく息を吐いて、

「今日のデートは取り止めですねー」

そ、そんなことってーー!!!
我に返った私は思わず咄嗟に屋敷全体に聞こえるような声で叫んでしまったいた。


38度5分の幸せ


「うるさいですねー。病人は静かに寝てて下さーい」

私の部屋でコトコトと鍋をかき混ぜるフラン。

「だって折角お休みが取れたのに」

なかなか休みが被らなかったから、必死でボスに頼み込んだ日々はなんだったのだろう。
グラスに椅子、挙げ句の果てにクローゼットを投げつけられて、痣を大量生産していたあの頃が一瞬で消えていった。

何だか、灰になっていく気分だった。


「ミーだって楽しみにしていたんですよー。今日のために真面目に仕事こなしてたし」
「ご、ごめんなさい…」

湯気を立てたお粥を持って、私が横になっているベッドに腰掛けて言った。

「まぁ今日はゆっくりお家デートってことでいいんじゃないですかー」
「…うん。そう、だね」

前髪に沿って、崩さないように優しく撫でられる。
気持ちがいい。

まだデートに未練はあるけれど、これはこれで 今日を楽しむことにした。



「はい、あーん」

ふぅふぅと息を吹き掛けて目の前に差し出されるスプーン。

「あーん」

口に含むと、卵の甘さが広がった。

「美味しいですかー?」
「うんっ、美味しい!」

意外と料理上手なんだねー、と笑うと満更でもなさそうな顔をして笑った。

「お水は?」
「飲むー」

急須のような水差しのような物…不思議水とでも呼ぼう。不思議水を口に注してもらって、水を飲む。

「でも珍しいですねー」
「何が?」

「七海が風邪引くなんて。バカは風邪引かないって言いますけどねー」
「ば、バカ!?」

思わず噛まないまま飲み込んだお粥が気管に入ってげほげほと噎せる。
そんな私を見かねて、溜め息を吐きながら背中をさするフラン。

「冗談ですよー。……まぁ、本当の事なんですけど。ミーはそんな七海が好きですからー」
「う…嬉しいけど、複雑…」
「七海はミーのこと嫌いなんですかー?」
「そういう、訳じゃ……うう」

照れ臭くなって上手い言葉が見つからず、うんうんと唸る。
しばらくして観念して黙り込んだ。

「…よーし、ご飯も食べましたしー。後は寝るだけですねー」

私が 「え?」 と呟くと共に、フランがベッドの中に潜り込み始めた。

「ちょっ、ちょちょちょフラン!!?」
「んー…何ですかー?」

布団の中でもぞもぞと動いて、顔を出す。
間の抜けたとろんとした表情。

「何でフランも入ってくるの…!」
「だってミー眠いですしー…。それに、七海が心配ですから一緒にいますー」

ぎゅうとお腹辺りに抱き付かれて「うわわっ」 と声を上げる。
か、顔が近い…! 髪がサラサラ。睫毛長い!
じっとフランを見つめていると、エメラルドグリーンの瞳と目が合う。

「見とれちゃいましたー?」

思わず顔を背ける。
ニヤニヤと笑うフランを視界に入れないようにした。

「ほら、七海。ぎゅー」

抱き付かれる強さが増して、少し痛い。
フランの頭の上に手を置いてみる。

「…今日はフラン、甘えん坊だね」
「ミーの精一杯のご奉仕ですー」

擦り寄せられた頬をそっと撫でる。
くすぐったそうに目を閉じるフランがいとおしくて、額にキスを落とした。

「! 七海」

急に襲ってきた睡魔に負けて、私もゆっくりと瞼を閉じる。

「…フラン、ありがとう」
「七海、お休みなさいー」


唇に、冷たい感触を感じて眠りに落ちた。





その後

「フラン大丈夫!?」
「げほ…頭に響くんで静かにして下さいー」
「ぅえっ!?う、移しちゃってごめんね」
「看病してくれるんですよねー」
「もちろん!」



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甘えるだけ。フラン好きです(*^^*)
看病ネタ、やりたかった。ベタで王道だけどやってみたかったんですよねぇ。



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