雨傘メランコリー


傘メランコリー
 

雨の匂いがする。
今にも降り出しそうな空を教室の窓から静かに見つめる。
それを彼に告げれば落胆した。

「まじかよ。今日傘持ってきてねぇ…。チッ」
「入れてあげようか?」
「だっ誰がテメェ何かの!」

今にも殴りかかりそうな勢いの獄寺くんに少し気圧される。
こうして見ると、結構怖い。ピアスを耳に沢山付けていて、目で人を殺してしまえそうな表情。
学校で評判が悪く、大して関わりのないただのクラスメイトの私が何でこんな話せているのかが不思議なくらいだ。

元はと言えば、くじ引きで獄寺くんの隣の席を引いてしまった友達が私に、「席変わってくれない? お願い! 私には無理〜」と泣き付いてくるから…。
あ、これは変わった私が悪いのか。でもほら断りきれないし。

自分のはっきりしない性格にも、今にも降り出しそうな空にも嫌気が差す。
何だか無性にイライラして机に突っ伏した。
勢い良く顔を伏せたもんだから鼻が痛かった。



「うわ、凄い雨降ってきた」

コンクリートを叩きつける激しい雨音が耳を刺す。
教科書を鞄に詰め込んで憂鬱に溜め息を吐いた。
帰り、靴下濡れちゃいそうだな。
音を聞くのは好きだけれど、雨の中を歩くのはあまり好きじゃない。

ぼーっと色んなことを考えていたら、獄寺くんが頭によぎった。
どうするのかな。傘がないって言っていたけど。

気になって獄寺くんの方をを見れば、何かを一生懸命黒板に書いていた。…数式?
ああ、沢田くんに勉強を教えているのか。
補習で残るらしい沢田くんに手取り足取り教えている獄寺くん。

うわ、眼鏡してる。髪も結んでるし、なんか良いなぁ。

…ってそうじゃなくて!
何を考えてるの私は。

さっき沢田くんと山本くんも傘が無いと騒いでいたから、濡れて帰るのだろうか。
一度気になったら忘れられない質だからモヤモヤする。
補習が終わって帰るまでに、雨が上がるといいけど。

傘が無いと困るんだろうなー、と客観的に考えて1人教室を出た。






別に下心がある訳じゃないんだよ。
ただ…、気になるだけで。本当だからね。ただそれだけ。

手を差し出して、1つ袋を押し付ける。
彼はぽかんと口を開けて、袋と私を交互に見た。

「傘、無いんでしょ」

私今月お金カツカツだから2本しか買えなかったけど。3人で帰るんだよね?

「コンビニのだから脆いけど」

そう付け加えればはっとしてこちらをまじまじと見られる。
訳が分からない、といった表情だ。

「わざわざ買ってきて…?」
「あー…うん、まぁ。わ、私はただ…こ、困ると思って…」

何の言い訳なのだろうか。
何だか恥ずかしくなってきた。大して仲も良くないはずの人に強引に買ってきた傘手渡して、何なの私。
やっぱり吃驚するよね? 私も吃驚だもん。
視線を合わすのが痛ましくて思わず俯く。

勝手に何してるんだ、口出しをするなって怒られるのかな。だって不良だし。
勢いで余計なことをするんじゃなかったって今凄い後悔してる。


「白石」
「…?」
「サンキュ、助かった」

貰っとく。
思いがけないその言葉に吃驚して顔を上げれば、優しくはにかむ獄寺くん。
いつも眉を寄せていて苛立っている、そんな面影は一切残っていなかった。

今度はこちらが口を開く番。ぽかんと見上げていると、くしゃりと私の頭を撫でる。
照れたように顔を少しだけ赤らめて、沢田くんたちの元へ小走りで戻っていった。


……ふ、不良のくせに。

ぴぴーっ、イエローカード。
そんなギャップ、反則です。

赤い顔を隠すように、前方寄りで傘を広げる。

雨と獄寺が、少しだけ好きになれた……かもしれない。
そんな日。



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反省はしている、後悔はしていない ってヤツですよ。


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