メルトどろり、どろり。
混ざり合わさる。
ふわり、ふわり。
包まれる。
私が、溶けていく。
メルトジリジリと焼けるような炎天下。
棒アイスをくわえて、ぐったりとブランコに腰掛ける。
通りすぎていく自転車の姿をただ何となく目で追いかけた。
楽しげにはしゃぐ幼児をぼーっと眺め、ヴーヴーと音を立てて震える携帯電話の通話ボタンを押す。
額に汗がじわじわと滲む。
『…あー、白石? 俺だ。今何してる?』
「んー公園にいるよ」
『またかよ、飽きねぇな…』
携帯電話越しに聞こえるハスキーな声の主は、名を 獄寺隼人という。
柄は悪いけれど私の友人であり、一番の理解者だ。
「獄寺だって私に電話してくるじゃん。…獄寺はさ、暇なの?」
『なっ…テメェに言われたくねぇ!!』
「あはは、まぁね」
『で? 会えたのか?』
「…ううん。でもいつか、ここなら、」
『また会えそうな気がする、だろ』
「! そう」
『けっ、そーかよ…』
「はぁ…王子様にまた会えないかな」
溜め息を一つ吐いて、溶けてだらりと垂れるアイスを舐める。
私がこんな真夏日に一人公園にいる理由。
それは、名も知らぬ、南国果実のような髪型の王子様に会うためだ。
その“王子様”とは、ここで初めて出会った。
部活終わりの下校中、偶然見掛けた変な髪型の黒曜生。
不良の多い学校と聞くし、何も無かったかのように、そそくさと帰ろうとしたときだった。
「おや、貴女。…そうです、貴女。白石 七海さんですね?」
呼び止められてびくりと肩が揺れる。
「え、何で名前…」
「クフフ、そんな怯えないで下さい。これ、昨日落としたでしょう。生徒手帳」
手渡されるそれには、顔写真と名前が書いてあって、私だと分かったことに納得。
「あ、なくしてたやつ…! あ、ありがとうございます!」
「良いんですよ。気を付けて下さいね」
そうして、跪き手を取ってリップ音を立てて薬指にキスをする。
満足げに微笑んで振り返る黒曜生。
その笑顔に、私は一瞬にして恋に落ちた。
ベタかもしれないけど……所謂一目惚れ。
気が付けば毎日公園に来て彼を探している。
まぁ、あれ以来ここで会えたことは無いんだけどね、と心の中で呟く。
『…………』
「? 獄寺、どうかした?」
『…何でもねぇよ』
「そう?」
それからも黙り込んで何かを考える獄寺。
あからさまに態度に出ている不機嫌ぶりに首を傾げる。
私、変なこと言ったっけ。
『チッ…、王子様って何だよ』
「もう何? 何で怒ってるの?」
『うるせー!!』
ぎゃんぎゃんと吠える獄寺にちょっと笑いが込み上げる。なんか、犬みたいだ。
でも今日はもう帰ろうかなー、と言って伸びをする。
アイス棒をごみ箱に投げ込んだ。ナイスシュート。
それじゃあね、と電話を切ろうとすると、
『…後ろ』
「へ、後ろ?」
そう言って、プツリと電話が切られる。
疑問符を浮かべ、後ろを確認してみると。
「獄寺?」
すぐそこに、息を切らして肩を揺らす獄寺が立っていた。
「…びっくりしたなぁ。どうしたの?」
何も言わずに近付いてくると、いきなり地面に膝を付いて跪く。
力強く手首を掴まれて、薬指に唇が触れる。
王子様とは何か違う、それ。
「ごっ、獄寺!? 何を…」
「上書き」
淡々と言い放った獄寺から後ずさる。
指とはいえ、獄寺にキスをされた。顔に熱が集まるのが分かった。
「俺じゃダメか?」
「え?」
「王子様のことなんか忘れて、俺にしろよ」
「……無理」
ニヤリと笑うその姿へ、獣のように歪む。
やっぱり、犬みたいだ。…狼?
不覚にも、カッコいいと思った。
「なら、惚れさせてやるよ」
囁かれたセリフは、ゆっくりと頭に入ってきて、浸透していく。
溶けるように、どろり。
掻き乱される感情。
赤くなった顔を俯かせて、張り合うように 「どうかな」 と呟いた。
----------------------------ぐだぐだ(^^) 誰だろうこれは。
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