はるこい「優しくて、明るくて、誠実で。
そんなバジルくんのことが好きです。
わ…私と、付き合ってくれませんか?」
春の日射しが暖かく、晴々とした日だった。
拙者は、七海殿に告白をされた。
最初はワケが分からなくてポカンと口を開けていたけれど、足早に去っていくその背中を見て、ようやく頭に言葉が入ってきた。
え、あの。その。告白? 拙者が?
初めての経験で、どう対応すればいいのか分からない。
それに…七海殿は仲間だし…
今までそんな風に考えたことがなかったような気がする。
七海殿は可愛らしい女性だ。
温かで気配りが出来て何より仲間思い。
周りを和ませる不思議な力を持っている。
そんな七海殿に告白されて…嬉しい。
でも…大切な仲間だからこそ、安易に返事をしてはいけない気がする。
YESかNOか、どちらを選んでも七海殿を傷付けてしまうのではないかと怖くなる。
もしも付き合ったとして、拙者は七海殿を幸せに出来るだろうか。
辛い思いをさせないだろうか。
「はぁ…」
一体、どうすればいいのでしょう。
「おうバジル、溜め息なんかついて元気ねーな。なんかあったのか?」
「お、親方様!?」
突然背後から親方様が現れた。
「ほれ、お父さんに話してみな」
親方様は楽しそうに笑う。
あの…親方様。父親以上の存在ではありますが、拙者のお父さんではありません。なんて恐れ多い…!
まぁ…親方様が相談に乗ると言ってくれている。
自分でも分からないごちゃごちゃを、口にしてみよう。
「――七海殿に好きだと言われました」
「おぉ、ついに言ったのか!」
「えっ?」
親方様の驚く姿に驚く。
ついに言った、とは一体…
ワケが分からないといった表情を浮かべる拙者に親方様は言い放った。
「や、オレ、七海から相談受けてたんだよ。
どうしたらいいかって」
「え…」
「七海な、お前のことよく見てるんだぞ。
この頃調子が悪いだとか、今日は気分が良い…だとか」
「!! 七海殿……」
親方様はわしわしと拙者の頭を撫でて、
「お前の気持ち次第だ。バジルの出したその答えに七海がどう思うかじゃない。
お前がどうしたいか、だ」
「拙者が…どうしたいか…」
親方様はニカリと笑って「青春だな〜」と上機嫌に離れていった。
あれからずっと悩み、親方様の言葉を考えていた。
拙者は、七海殿のことを――――どう思っているんだ?
かけがえのない仲間であることは間違いない。
信頼し合った友人でもある。
…それでも、仲間であり友人、と言われたら何か違う。
もっと、大きな…何か。
拙者にとって七海殿は――
「バジルくん!!」
「っ七海殿!?」
息を切らして、拙者の元へ駆けてくる。
そして拙者に思いきり飛び付いた。
「わっ…っととと」
拙者の胸に顔を埋めて鼻をすする。
泣いて、いる…?
「七海殿…?」
「バ…ジルくん…」
「どうして泣いているのですか…?」
背中を擦って聞いてみる。
七海殿は何かを呟いた。
「…たから」
「え?」
「バジルくんを困らせちゃったから…
私が一方的に思いを伝えたせいで迷惑を掛けちゃった…。ごめん、ごめんね。」
予想外の言葉に、目を見開く。
ああ、優しいなぁ。
七海殿が泣く。
その姿に、すとん。
拙者の中で恋に落ちる音がした。
「…どうやら、拙者の杞憂だったみたいですね」
拙者は、七海殿を傷付けるのが一番辛くて。
一番辛くないのを、と拙者が考えていたことが七海殿は一番辛い。
互いに思いは同じだった。相手を傷付けたくない、と。
ならば拙者は、自分の答えを出さなければならない。
「拙者、七海殿にお伝えしなければならないことがあります」
「え?」
顔を上げて、小首を傾げる。可愛い…。
「七海殿が好きです。付き合って頂けますか?」
「バジルくん…!」
腕の中の拙者の太陽。
優しい日射しに包まれて、春が始まる。
手を差し出す。
そっと置かれた手を握り締めた。
春よ、こい。
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親方様の口調どうだったかな^^
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