貪欲ドロップス


いつだって私は、本当の愛が欲しくて堪らなかった。
特別な関係の筈なのに、心が遠い。


「ね、スパナ。」

「何」

「お菓子いる?」

「いる。」


飴玉を掴むその手が、私の手を掴めばいいのに。

昔から、私とスパナは煮え切らない関係で、一緒には居るものの何があるわけでなく。
恋人でなく、仲間でなく、友人でなく。
しかし互いに特別な位置関係にいて、もどかしくじれったい日々が続いていた。
私はスパナにとっての何なのか。
それを考えると、心がキュッと締まって苦しくなる。

考えないように。考えないように。
そうして暮らしていたら、スパナはどんどん先へ進んでいて。
私には追い付けないくらい、前にいた。


時の流れは早くて、昔私の頭を撫でた手のひらが、今は機械を撫でる。
それが、私にはどうしても寂しく感じて、あぁ、もう追い付けないのだと悟った。



「七海、レンチ取って」

「はいはい」


それでも。
それでも、追い続ける理由は――


「…あ。言ってなかった。七海」

「何?」

「誕生日おめでとう」


それでもスパナを追い掛けるのは、優しさを忘れられないから。
手のひらの温かみを知っているから。

私を誰よりも知っているスパナは、私を突き放しはしない。
つい涙が浮かんだ目元に、ゴツゴツとした指が添えられて、水滴を拭われる。
機械に対した手付きとは違った、昔頭を撫でた 温かな手で。


「ありがとう」


ふにゃりと笑えば、ふにゃりと笑いを返される。
愛せば愛されるというわけじゃないけれど。
たまに出てくる昔の姿が、私には辛く、そして愛しい。


変わりゆく姿。
今この優しさを一生焼き付けていたい。共にしたい。

ずっと一緒に居たい。


そんな願いはいつか届くのだろうか。

彼を見失ってしまわないか。
立ち止まってしまわないか。

私はそんな思いを抱きながら彼を想い続ける。
彼の愛す飴玉をポケットに忍ばせて、私はまた手を伸ばした。





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何故か最近サブキャラが好きで堪らないのです(*''*)
思いつきの犯行。なんかよく分からない風に仕上がりました。


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