こころ彩る


*時間軸は未来編頃


昼食を食べ終えて、食器洗いも洗濯も済んだ、アジトをふらつく昼下がり。
暇だし、皆の特訓の様子を見に行こうかななんて考えていた所で、フゥ太を見付けた。
あっちも私に気付いたようで、忙しそうに動かしていた手を止めた。


「あ、七海姉」

「フゥ太」

「ほらこっち来て」


穏やかに微笑むように笑うフゥ太に釣られて私も笑みを浮かべる。
フゥ太はこの十年で変わらないようで、結構変わった。
体格もそうだけど、考え方だとか、物腰だとか。
子供の頃と比べるのはおかしいかもしれないけど、別人のように笑うフゥ太に違和感を感じるのは私だけではない筈。
そんなフゥ太に私はいつも心を奪われるのだ。

机の上に散乱する書類をまとめて隅に置いたフゥ太は身体ごと私の方に向き、何故か自分の腿をぽんぽんと叩いた。


「ここ、座って?」

「え?」

「ダメ?」

「いや、でも」


何か変な感じ。フゥ太にそんなことされるなんて慣れないし、第一恥ずかしい。
あたふたとしていると「仕方ないなぁ」と言って椅子から立ち上がる。
何だろう、と思っていると私に近付いてきて…、立ち止まったと思いきやひょいっと私を抱き上げた。


「っぇえええええ!?」

「捕まえちゃった。強制連行だよー」


楽しそうに、それでも穏やかにのんびりしながら言うフゥ太はあれだ。
何だか狡い。

私を抱え、再び椅子に座る。


「七海姉が小さいと何だか、変な感じだね」

「私もフゥ太が大きいと、変な感じするよ」

「同じだね」


そう言ってまたクスクスと笑う。
こうやって笑われると、何だか胸が、苦しくなる。
何故か無性に寂しくなって、幼い頃のフゥ太を並べてしまうからだ。


「ねぇ、フゥ太」

「何?」

「………」


無言で頭を撫でてやると、驚いたように目を見開き、くすぐったそうに細める。
ずっとよしよしを続けていると、私の肩にフゥ太が頭を埋めた。


「……この年で頭撫でられるとは思わなかったよ」

「私からしたら子供から一気に成人したように見えるけどね」

「そっか」


十年分、か。
そう呟くフゥ太の吐息が直接肩に当たって、何だかドキドキする。

…本当に、違うんだなぁ。と改めて感じさせられた。
体格も男の子から男の人に変わっていて、寂しいような、何というか。


「十年前、七海姉はこんなに小さいのに、僕にはお姉さんに見えたんだよ」

「そっか」

「七海姉はいつも堂々としていて、僕を守ってくれてたんだ」

「そうかな」

「そうだよ。幼い頃から、七海姉は遠いところにいて、僕はただ見上げ、追い掛けるばかりだった。
幼いながら、七海姉に憧れて、守ることの出来ない無力さにもどかしさも感じていて、」

「………」

「でもね、」


俯いて下を向いていた私の顔を優しく上げ、目を合わせる。


「今はこうやって対等に触れることが出来るんだ。
ようやく、七海姉を守る力が出来た」

「…対等じゃないよ」

「そうだったね」


眉を下げて、ふわりと笑う。
その笑顔が私を温かく包み込む。

でも、でも。


「…私は、今はフゥ太が遠く感じるよ」


ポソリと呟かれた言葉にフゥ太はぴくりと反応して、私を見つめる。


「私の知っていたフゥ太が知らない人になっていくようで怖い。
手が、もう届かない」

「大丈夫だよ」


私の目を真っ直ぐ見つめて、手をぎゅっと握り締めた。


「僕は、七海姉を守るため、ここにいる。昔も今も変わらずに。幼い頃はその力はなかったけれど…」

「フゥ太…」

「僕は僕で、変わらず七海姉を守り続ける。変わらないよ」

「……そうだね」



「好きなんだ、七海姉」


ふわりと笑って、優しく抱き締められる。
手加減した力で、そっと。



いつだって、フゥ太は笑っていた。
私を見てくれていた。

十年前の無邪気な笑顔も、現在の少し大人びた笑顔も、全てが私を包み込んでいて。

フゥ太が笑う度、ふわりと心が色付いていって。

染み込むように、心地好く。
十年の時をかけてフゥ太に染まっていく。

鮮やかな色へと、少しずつ。

もとにはもう戻らない。
まだ若く幼い私には、そんな気がするのだ。




***
そういえばフゥ太夢って他サイト様ではあまりお見かけしないような気がして自分で書いちゃいました。
自給自足です(^q^)


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