やっぱり、少し勇気が足りない


私は、沢田綱吉が好きだ。
それを言えば人はみな「趣味が悪い」だの「どこがいいんだ」だの言うが、私はそうは思わない。
逆に聞けば、どこが悪いと言うのだろう。それが不思議で堪らない。
だって、彼はこんなにも優しい素敵な人物だというのにね。


****

「七海ちゃん?」

「っ、何?」

「え、あ、いや。何か珍しくボーッとしてたからどうしたのかなって」

「あ、ううん。考え事してただけ」

それを伝えると、そっか、と笑う。
椅子にもたれ掛かると、軋む音がした。
私は今、彼の部屋に来ている。右手にはシャーペン、左手には数学の教科書、目の前には彼こと沢田綱吉。
所謂勉強会というものを開いていて、チマチマと夏休みの課題を進めている。

「うぁ〜〜疲れたねぇ!」

「うわぁっ」

バサッと教科書を放り、机に突っ伏す。
ツナはそれに驚いたように声を上げ、目を丸くして私を見つめる。

「全然分からないものばっか。ダメだー」

「お、俺もー…」

机に突っ伏し便乗するツナに笑みを溢すと、目が合って笑い返される。

「ちょっと休憩する?」

「そうだね」

「待ってて、何か飲み物持ってくる」

そう言って部屋を出ていくツナを見送り、再び突っ伏す。
あ。今更だが、私はツナとは付き合っていない。
幼馴染みだとか従兄妹だとかそういう特別なポジションではなく、ただのクラスメイト。
必死に話し掛けて、アドレスを聞き出して、少し仲良くなった?のかダメもとで「勉強会をしよう」と誘ったら何とOK。
まさか成功するとは思ってもみなかったので今も心臓はバクバクとなり、はち切れそうだ。


「遅くなってごめんね。麦茶でいい?」

「あ、うん。いただきます」

差し出された麦茶を手に取り、氷が音を立てる。
ストローに口をつけてじゅる、と吸うと、意外と喉が渇いていたみたいで簡単に飲み干してしまった。

「うわ、早いね」

「え? あ、ごごごめんね!?」

何故か謝ってしまう。そんな私に吹き出して「また持ってくるよ」とツナは笑った。
めちゃくちゃ喉が渇いていたと思われてたらヤだな。
何だかがっついているみたいで恥ずかしい。

俯いて黙り込んでいると、静寂が訪れた。
き、気まずい…。そう思っているのは私だけなのだろうか。
そして、ついにツナが口を開く。


「……今日は暑いね。皆遊びに行ってるのかな」

「ね。花と京子ちゃんはプールだって」

「プールかー、いいなぁ」

そう言えば、ツナは京子ちゃんのこと、今もまだ好きなのかな。
ずっと前に好きだった、とかいう噂を耳にしたことがある。
うん、まぁ、惚れるのも分かる。だってあの京子ちゃんだもん。クラスのマドンナ的存在。隅の方にいて皆についていく感じの私とはかけ離れていて…、自分で言っていて悲しくなった。

名前を出したことに軽く後悔し、ツナは今何を考えているんだろうとか考える。
チラリとツナに目を向けると、何故かこっちを見ていたのか目が合った。


「……え、何?」

「あのさ、もし良かったらだけど…今度一緒に遊びに行かない?
あ、あの、七海ちゃんが嫌なら別に……」

いいんだけど…と尻すぼみになりながらそう呟くツナに心が跳ねる。

え、それって。まさか。

私と、遊びに?
二人きりってこと?

それって…期待してもいいの?

「嫌、かな?」

「そ、そんなこと!う…嬉しいっ」

「本当!? 嬉しいなぁ」


どうしようもなくツナが愛しくなって、コクコクと何度も頷く。
嬉しそうに笑うツナに堪えられなくなって悶える。


「七海ちゃん、最近ボーッとしてることが多いからさ、もしかして俺嫌われてる?とか思って心配したんだ。…あー、良かったー」

「き、嫌いなわけないよ!むしろ…す、すっ…」

「す?」

「〜〜〜〜っ!」

急に恥ずかしくなって続く言葉を飲み込む。
口をつぐむと、何故かツナが残念そうに溜め息を吐いた。
…………何で?



やっぱり、少し勇気が足りない

(……あともう一押しかな)(ツナ、何か言った?)(え? 別に何も言ってないよ?)

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部屋の構造間違えた…
多分ツナはヒロインに好かれてることを薄々気付いていたんだと思う
そして策略に乗せてヒロインを操るツナさんなら尚良し。

タイトルお借りしました!
「確かに恋だった」様




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