「……まだかな?」

ちらりと窓の外を見やれば、空はどんよりとした厚い雲に覆われている。昼は小雨だったもののこの数時間で本降りとなった。
普段走らない師匠でさえも趨走(すうそう)するとされる師走の初旬。ここでの"師"とは普通法師を差すらしいが、ため息を零し窓の外を見やる雪村千鶴の師であり恋人である土方歳三もまた、多忙を極めていた。

千鶴は土方宅で彼の帰りを今か今かと待っている最中だ。年間通して忙しい土方だが、高校教師であるために定期考査から成績を付けたり受験対策に追われたりとこの時期は特に仕事が多い。
その中で何とか一緒に過ごす時間を作ってくれた土方。それが嬉しくて張り切って部屋を掃除し夕飯を作った。しかしここに彼の姿はない。
今日は土曜日で本来学校は休みだ。休日出勤しているわけだが午後には終わると言っていた。にも関わらず一向に帰ってくる気配はなく、外は日が暮れてきていた。千鶴はテーブルの上に投げ出している携帯を手に取り確認する。……案の定着信はない。

千鶴はソファーに深く座り直しクッションを抱えてそこに顔をうずめた。
土方は優しいし、自分を想ってくれている。それなのに寂しいと感じてしまうのは我が儘だろうか。
たとえ我が儘だったとしてもそう思う気持ちは止められなくて、千鶴は本日何回目かも分からなくなったため息を吐いた。

外では相変わらず雨が降っているようでざぁざぁという音が聞こえる。独りで過ごす部屋に響く雨音はあまりに寂しい。
室内が暖かいため忘れていたが、そういえば今夜は雪になるかもしれないと天気予報で言っていた。
……先生、大丈夫かな?
そんなことを考えながら船を漕ぎ、いつの間にやら千鶴は夢の世界へと旅立った。


――…千鶴

自分を呼ぶ愛しい声に答えようとするが、瞼が上がらない。

あともう少しだけ。
心地良い温もりに包まれながらまた深い眠りについた。



「ただいま」

身体は疲れているものの、愛しい存在が待ってくれていると思えば気持ちが軽い。
土方は僅かについた雨粒を払いながら帰宅を告げた。だが返事がないことに違和感を覚える。いつもならまるで主人の帰りを待つ犬の如く千鶴が出迎えてくれるはずなのだが……。

廊下の先、リビングへと向かえば明かりが漏れている。扉を開け中を覗けばクッションを抱えながらソファーで眠る千鶴がいた。
時計を見れば既に八時を回っており、待たせすぎたかと反省する。
考えれば最近は以前にも増して忙しく、なかなか一緒に過ごす時間がなかった。寂しい思いをさせてしまっただろう。もちろん会いたかったのは千鶴だけではなく土方も同じ気持ちで、目の前の存在に愛おしさが溢れる。

「――…千鶴」

自分も横に腰掛け、そっとその華奢な肩を抱き寄せる。
いくら暖房が効いているとはいえ寒くないのだろうか?
風邪でもひかれた大変だと自分の着ていたスーツをかけてやれば千鶴は僅かに身じろいだ。起きるのかと思えば相変わらず瞼は閉じたまま。

たまにはこうして二人寄り添って過ごすのもいいだろう。
そう思い土方もまた目を閉じた。



ゆめのあと



深い眠りから覚め瞼を上げれば目の前には愛する人の顔。千鶴の心臓がどくりと一際大きな音を立てる。同時に感じたのは何ともいえない幸福感。

暖房では決して得ることのできない温もりに包まれながら微睡む。


降っていた雨が雪に変わり、白く世界を塗り替えていたことに気づくまであともう少し。



fin.

12/7
『stumble』/あき様より挿し絵いただきました!ありがとうございます。



ただ季節ネタを書こうとしたらこうなりました。
十二月初旬で積雪……。少なくとも東京じゃないですね。北海道?ご想像にお任せします。


ブログ開設一周年記念にあき様へおしつk……捧げます。
よろしかったら受け取ってやってください。

では改めまして、サイト一周年おめでとうございます!
これからもよろしくお願いします。


なお、お持ち帰りはあき様ご本人のみでお願いします。



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