夜の帳がおりて、そこにぽつぽつと音がうまれた。
雨のために戸の隙間から冷気が忍び寄って、私は身震いする。
「寒いのか?」
お風呂から出て来たらしい一さんが私に問いかけた。髪はまだ濡れていて普段はきっちりと着ている着物も、今は合わせ目が寛げられている。
「いいえ、私は大丈夫です。それより一さんこそ風邪をひいてしまいます」
私は言いながら一さんの頭に手拭いを乗せ、優しく頭を拭く。すると一さんは気持ちよさそうに目を閉じた。
「雨が降っていますね」
「……千鶴は雨が好きだな」
「え?」
私がことりと首を傾げながら一さんの顔をのぞき込むと、彼は僅かに微笑んだ。私にだけ向けられるその表情に思わずどきりとする。
「どうしてそう思うんですか?」
確かに静寂の中に響く雨音は聞いていて心地良いとは思うが、好きか嫌いかなんて考えたこともなかった。
「何故だと思う?」
「うーん……私が顔に出やすいからでしょうか?」
「まあ、それもあるが―…」
そう言うと、一さんはさらに笑みを深くしてそっと私の耳元で囁いた。
私はそれを聞いて頬に熱が集まるのと同時に、顔が緩むのを感じた。
床に入り、一さんの腕に抱かれながらしとしとと降る雨音を聞く。
こうして二人で抱き合っていると先刻感じた肌寒さも嘘のようだ。
私を包む体温と音色は何よりもやさしい。
優しい雨
俺も好きだからな――…
fin.
弱い雨の音にどこかやさしさを感じる今日この頃。