自分が生まれた意味を生きている時間の中で、見つけることは可能なのだろうか。
そんな途方もないことを僕は最近考えている。
「どうぞ。大鳥さん」
「ありがとう。……ふぅ。相変わらず、雪村君が淹れてくれるお茶は美味しいね。毎日飲んでも飽きないぐらい」
「………」
「大鳥さんは誉め過ぎです…」
「本心なんだけどな」
土方君の部屋で、僕は雪村君が淹れたお茶をご馳走になっている。戦況は悪くなる一方で、本当なら呑気に和んでいる場合ではないのだけれど、時には気分転換だって大事だ。そうなると、僕の足は決まってこの二人がいる場所へと行く。
僕が彼らを訪ねると、雪村君は笑顔で迎えてくれるのに対し、土方君は「また来たのか」とげんなりした顔をする。もちろん「二人の時間を邪魔して悪いね」と詫びを入れることは忘れない。そう言うと、彼は少しだけ笑い、彼女は顔を赤くする。この光景がだんだんと日常と化していくのが僕は心地よかった。
「やっぱり、僕は土方君が羨ましいよ。こんな可愛いお嫁さんがいつも傍にいてくれてさ」
「っ……!」
「あんたもそういう相手を見つければいいだろ」
「そう簡単に言わないでくれよ。それに、お嫁さんなら僕にもいるし」
「……えっ?」
「……はっ?」
「えっ?」
いつものように、進むと思った談話が止まった。向かい側のソファに座る土方君と雪村君がなんだか信じられないものを見たような目でこちらを凝視している。
あれ、僕、何か変なこと言ったかな。
「大鳥さん…妻がいるのか…?」
「ああ。子供もいるし、夫婦になって八年は経つかな」
「「!!?」」
雷が直撃した、そんな衝撃が彼らに落ちた気がした。雪村君はともかく、土方君がこんなに驚いた姿は初めて見た。
二人の目の前で手を振ってみても、無反応。仕方がないから、僕は二人が現実に戻ってくるのを待つことにした。
ふと外の世界を見ると、雪が降っていた。空からやって来るそれは、行く先を隠すように地面を埋めていく。真っ白に。
この戦いが終わったら、僕は――彼らはどうなるのだろう。その先は、何の色にもなれる白のように、どんなものになれる。良いようにも、悪いようにも。
宇都宮での戦で、土方君と会った時。仙台で置き去りにされた雪村君に、ハンケチーフを渡した時。そして、二人が一緒にいるのを眺めた時、僕は思った。二人には戦いから離れて、幸せに暮らして欲しいと。その為なら、僕はなんだってできると。ああ、もしかしたら…。
「? どうかしたのか、大鳥さん」
「いや、なんでもないよ」
一人で笑い出した僕をいつ戻ってきたのか意識を取り戻した土方君と雪村君が、今度は不思議そうに見つめる。すぐにやめるつもりだったのに、結局、身体が震えるまで笑う羽目になってしまった。そんな僕を二人はただ見ていた。
もしかしたら、僕は、土方君と雪村君を幸せにしたくて生まれてきたのかもしれない。そんな他人が聞いたら「馬鹿か」と思いそうなものも、僕の生まれた理由の一つにしていいだろう。だって、僕の命は僕のものだから。
軌 跡
生まれたその日、僕は大切な夢を貰った
2011.2.25
author site:paz