『終わりなき道』
真っ白な絨毯にざくざくと模様を刻む。振り返ってその景色に満足してからまた歩を進めた。
ずいぶんと膨らんだお腹をさすれば思わず頬が緩んでしまう。大事に大事にそれを抱えて前を向き直すと彼が駆け寄って来るのが見えた。私は嬉しくなって手を振った。
「一さん、お帰りなさい」
「独りで出歩いては駄目だろう!」
普段は寡黙で穏やかな人だけど、最近はこうやって怒られてしまうことが多くなった。実際は心配しているだけなのだけど。
「大丈夫ですよ。それに少しは動いた方がいいみたいですし」
くすくすと笑いながら答えると、一さんはふっと息を吐いてから私の手をそっと包み込んでくれた。
「しかし、体が冷えるだろう」
「じゃあ、早く帰りましょうか」
並んで家路を行けば、二人分の足音と僅かな息遣いだけが響くだけで、他には何も聞こえない。周りの白さも相まって、まるで世界に私たちだけのような気がしてくる。
そこで一端立ち止まって振り返る。一さんも釣られるように後ろを向いた。
「……これが、三人になるんですね」
「そうだな」
仲良く並んだ足跡を見ながら二人笑い合う。嗚呼、幸せだなと感じると同時に思うことがある。
「なれるでしょうか、母親に」
私は母様を知らないし、それに、父様だって……。
一さんは少し驚いたように目を見開いて、それから柔らかく微笑んだ。
「大丈夫だ。断言できる」
「でも、心配なんです」
「あんたを……千鶴を見ていれば分かる。千鶴を立派に育てた綱道さんが父親なんだ。あんたが立派な親になるのは当然のことだ」
故に心配無用だ。そう笑みを深めながら言われて目頭が熱くなった。最後に見た、父様の笑顔が頭を掠める。
「俺も不安になる。……無垢な赤子をこの手に抱いて良いのだろうかと」
一さんはどこか遠くを見るような目をしていた。その瞳には刀を握り、走り続けていた日々が映っているのだろう。
「大丈夫です。……一さんの手は、とっても優しい手ですから」
さっき一さんがしてくれたように、今度は私が彼の手を包む。優しく、あたたかで、力強い手。一さんの心を、志を、そのまま宿した手だ。
一さんは空いている手を更に私の手の上に重ねた。何も言わないけれど、考えていることは何となく分かる。
「……帰るか」
「はい」
二人手を取り合って、また足跡を刻んだ。
父様から私。私と一さんからこの子へ。この子と誰かからまた子へ。ずっとずっと足跡は続いていく。終わりのない道。
私は幸せを噛み締めながら、また雪に跡を残した。