『世界の終焉は二人で』




――八年後に小惑星が衝突し、そして地球は滅亡する。――


そう告げられてから五年が経った。


当初のパニックも治まり、今では以前より多少治安が悪いものの、平穏な日々が続いている。

もちろん、私たちもその中の一部だ。




「ただいま、千鶴」

「はじめさん。お帰りなさい」

夕食の前に一さんが帰ってきて、それを出迎える。最近はそんな当たり前が戻りつつあった。


「今日は大丈夫だったか?」

「はい。私は大丈夫でしたよ。ちゃんと戸締まりもしていますし。………一さんは、危ない目に遭いませんでしたか?」

「ああ。心配ない」

「……良かったです。一さんが無事で」

目頭が熱を持って一筋涙が流れる。すると一さんがやさしく抱き締めてくれた。一さんの匂いと体温に包まれてひどく安心する。

「俺が誰かにやられるとでも思うのか?」

「一さんが強いのは分かってます。でも………心配なものは心配なんです。」

今は小康状態にあるとはいえ、治安維持を務める警察官である彼の身が危険に晒されるのに変わりはない。実際、九死に一生を得る、というような経験は一度や二度ではないのだ。


「大丈夫だ。何がなんでもあと三年は生きる」

「ふふ、そうですね」

一さんがあまりにも自信満々に言うものだから、私の顔に自然と笑みが浮かぶ。すると彼も、千鶴の顔はずいぶんと忙しいなと言って微かに口角を上げた。



そう、あと三年。

三年経てば世界が終わる。僅かに生き延びる生物はいるかもしれないが、少なくとも人類は――私たちの世界は終わる。



ふと窓の外を見ると真っ赤な夕焼け空。ただそれを二人で見つめる。


「今日、平助たちに会った」

「そうですか。元気そうでしたか?」


ぽつりぽつりと始まる会話。この愛おしい時間ともお別れ。


「ああ。相変わらずだ。最近は近藤さんの道場に集まって皆で稽古をしているらしい」

「ふふっ。何だかみなさんらしいです」



そして、暫しの沈黙が降りた。



「夜だといいですね」

「何がだ?」



太陽が沈んで、赤みのかかった月が昇る。こうしてゆっくりと、だけど確実に一日が過ぎて『最期』が近付いていく。



それでもこんなに穏やかな気持ちでいられるのは、貴方が隣にいるから。



「隕石がぶつかるの。きっと空が光り輝いて、すごく綺麗ですよ」

「……ああ、そうだな」

一さんはやさしく微笑んで、私の肩を抱き寄せた。


「二人で、見るか」










それまでは、どうかこの日々を




fin.

伊坂○太郎作『終末のフール』パロ。

不安と戦いつつも前を見つめる二人を書こうとしたらこうなりました。






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