『名前をください』
あたたかい。心地よいけれど、私の輪郭さえ溶かしてしまいそうな体温。それに包まれたと思ったら何処からか声がする。私の眼は何かを映しているはずなのに、頭は何も捉えていない。
何?何を言っているの?
――…名前は?
男の人の声が聞こえる。総司さんとは違うけれど、低くてとても落ち着く声。
わたし……わたしの名前は――…。
ちづる
「……ちづる、か。いい名前だな」
彼が、私の名を呼んだ。ちづる、チヅル、千鶴。
とくんと、心臓が脈打つ。新しい私が生まれた。
名前をください
彼が私を名付けた。そして私はちづるを殺して、千鶴を生む。
こうやって、私はわたしを殺していく。殺して、わたしを愛した人さえ忘れて……。もう、死にたくないのに。
目の前の彼がわたしを塗り替えていく。私が色づく。また次の別れが来るまでは、私は私だ。