消えない太陽



 心にその名を刻みつけて
 闇に飲まれど 薄れぬ光
 掌に残る感触を忘れようと目を閉じる。
 深淵の闇を抱えて岩場の影で蹲る。

 これが、勝者の姿だろうか。
 口元を笑みの形に変えようと試みるが上手くいかない。

 斬った。殺した。たしかに、息の根を止めた。
 地に横たわる身体をこの目で見た。
 どれだけ揺さぶろうともピクリとも動かなかった。

 徳川家康は死んだ。
 荒廃した関ヶ原の大地に転がる、無尽の屍の一つと化した。
 もはや一片の価値もない。骨と肉でできた中身のない物≠セ。

 そうなることを切に望んだ。
 そうなれば心に巣食う、忌々しい光を払えるのだと。

 思って、いたのに。

「家康」
 目を閉じて、身を丸めて。
「家康」
 幾人もの魂を屠った、凶器を抱いて。
「家康」
 未だ、身の内に宿る光を。
「……家康」
 消し去ろうと――
「……っ、家康……!!」
 冷たい刀を握る。

 家康の身体を裂いた刀。
 これと同じ、物になった身体。 
 アレが動いていたことを知っている。
 強い意志の宿った目で戯言を語っていた。
 たくさんの仲間に囲まれて陽気に笑い声を上げていた。

 その中に、いた頃もあった。

 憎んで、恨んで、殺してやった。
 けれど、失った今。
 遠い昔に忘れた思い出ばかりが甦る。

「いえ、やすっ……!」
 
 暗闇に身を置けども消えない光。
 心を永劫に照らし続ける太陽を消し去る術は唯一つ。

 眠る。
 深い、深い闇の中で。
 二度と目覚めることのないよう、願いながら――

 太陽を見上げて、闇に堕ちた。


 end


----備考----
三成赤ED後、関ヶ原にて。
ツイッター仲間・とびみず様のイラストを見て思わずピクシブに上げた散文です。 

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